
中華週報1877号(1998.10.1)
今週の写真:防衛庁長官、環境庁長官等を歴任した愛知和男衆院議員(左)ら日本の国会議員6名が経済問題協議のため台湾を訪問。9月14日に蕭万長・行政院長(右)と会見、翌15日に李総統と会見した
週間ニュース・フラッシュ
◆隔週週休二日制の企業実施は七六%
行政院人事行政局は九月十日、「隔週週休二日制の実施に関する報告書」を発表したが、行政院労工委員会の調査によって企業における隔週週休二日制の実施率は七六・四%であることが明らかになった。人事局は「週休二日制の全面実施は時代の趨勢となっており、二〇〇〇年の総統選挙のときには、これが選挙公約のカードになるだろう」と指摘した。 《台北『工商時報』9月11日》
◆金融対策で自由化、国際化に逆行することはない
蕭万長・行政院長は九月十一日、立法院での答弁において「金融の混乱を防ぐためあらゆる対策を講じるが、自由化、国際化の趨勢に逆行することは決してない」と答弁し、「今年の経済成長率は五~五・五%を維持する」と表明した。 《台北『経済日報』9月12日》
◆李登輝総統が自民党金融関係議員らと会見
李登輝総統は九月十五日、元防衛庁長官、環境庁長官で現在自民党金融再生計画推進特別調査会会長を務める愛知和男衆院議員を団長とする、自民党金融・財政・予算関連国会議員訪華団一行と会見した。一行のメンバーは愛知議員のほか、井奥貞雄、坂本剛二、鴨下一郎、米田建三、長谷川道郎の各議員で、アジア金融危機のなかで安定成長を続けている台湾に敬意を表した。 《台北『中央社』9月15日》
◆農地の自由売買移行後は作業小屋等の建築を制限
政府は農地の売買制限を解禁し、農地自由売買許可に踏み切る意向だが、蕭万長・行政院長は九月十五日、立法院で全面自由化を求める声に対し「自由売買移行後は農村の生態保護と農民の需要に鑑み、作業小屋や農機具置き場等の建築には一定の制限が必要だ」と答弁した。 《台北『中央日報』9月16日》
◆フリーマン元米国防次官補の指摘は歴史的事実を無視
フリーマン元国防次官補は九月十四日、ヘリテージ財団のワシントンでのフォーラムで「李登輝総統が『台湾における中華民国』という呼称を使い、陳水扁・台北市長が『台湾の前途を国民投票で』と言っているのは、すべて現状の変化を求め、台独を思考するものだ」と発言したが、これに対し烏元彦・外交部スポークスマンは同十五日、「中華民国が一九一二年から主権独立国家であることは歴史的事実であって、誰の表明もこの事実に変化を加えようとするものではない」と反論した。 《台北『中央日報』9月16日》
◆民進党が「辜汪会見」に警戒呼びかけ
「辜汪会見」が実現する運びとなったが、民進党中国事務部の顔万進主任は九月十六日、「中共の策略は『正面譲歩、側面包囲』で、『一つの中国』の発想によって政治対話の局面を作り、国際的にわが方に圧力を加えようとするものであり、十分注意が必要だ」と警戒を呼びかけた。 《台北『中央日報』9月17日》
◆二〇〇〇年に兵役が一部義務的奉仕制に
内政部は九月十六日、二〇〇〇年から男子の兵役制の一部を社会活動に参加する義務的な奉仕制度に切り替えると発表した。奉仕活動の場合、期間は兵役(二年)より長く二~三年になる。奉仕の分野は警察、消防、社会福祉、遠隔地環境保全、医療、海外協力などである。 《台北『聯合報』9月17日》
◆台湾省タバコ酒公売局を民営化に
行政院経済建設委員会は九月十六日、来年一月一日から台湾省タバコ酒公売局を公営タバコ酒公司に改革して独立採算制の事業体とし、二〇〇〇年までに完全民営化に移行すると発表した。 《台北『聯合報』9月17日》
今週の焦点
16カ国の支持に深い感謝
国際協調の日は必ず来る
日本の経済低迷にしろ、アジア金融危機にしても、またロシアの政治経済両面の危機にしても、一国ではどうにもならない。そこには国際間の相互協力が必要だ。だが現代政治から見れば、地球村の協調を阻んでいた冷戦はすでに遠い過去のものになり、世界はすでに相互利益の時代に入っているというのに、大国外交がまだまだまかり通るようだ。それをまざまざと見せつけたのが、9月11日の第53回国連総会の総務委員会である。このとき中南米やアフリカなど15カ国が共同提案していた台湾における中華民国の国連参加問題を、今回も総会の議題として取り上げないことを40:16で決めてしまった。これは国際構造の変化を要求するという物騒なものではなく、一方的に台湾の中華民国を国連から追放し、代わりに中国大陸を支配する北京の共産政権に「中国」の代表として国連の議席を与えるとした、冷戦時代の産物である1971年の第2758号決議を再検討し、現代の感覚から修正を加える必要があるのではないかという、きわめて妥当で穏健な建議だったのだ。
だからソロモン諸島をはじめ共同提案国は「台湾の住民は経済的に繁栄し民主と自由それに人権擁護においても卓越した貢献をしているばかりか、中華民国はすでに一つの主権独立の国家であり、国連は憲章に違反して2180万住民の権利を軽視してはならない」と強調し、「1971年に国連が台湾を門外に排斥したのは当時の政権の代表であって、今日両岸武力対峙は過去のものとなり、国連総会は第2758号決議を再検討する必要がある」と建議していたのだ。なるほど両岸の隔絶状態はすでに過去のもので、この構図がいまもまかり通っているのはどう考えてもおかしい。
それゆえに反対意見を陳述した国々の声はいわゆる「反対なものは反対」というゴリ押し的なものでしかなく、元凶の北京は新華社を通じて「台湾は中国の一省であり、国連に加盟するいかなる資格もない」などと言っていたが、そこでいう「中国」とはまさに「中華人民共和国」であり、台湾2180万住民の意思を無視した覇権主義的なものであることは明白である。これに対し中華民国外交部は9月12日、北京の覇権的行為と40カ国の台湾の地位に対する矮小化を遺憾とする一方、15カ国の共同提案ならびに総務委員会での16カ国の支持に深い感謝の意を表明し、「今年も正式議題にはならなかったが、国際社会に理解を求め、わが国の国際活動の場の開拓に支持を得るのに直接的な意義があった」と、今後とも努力を続ける意思を明確にしていた。また、台北駐ニューヨーク経済文化代表処の鄧申生代表は当日の記者会見で、同じく16カ国の支持に感謝の念を表すとともに、「反対した国は一カ国たりとも、中華民国の政治と経済など各方面の成果ならびに国際社会への貢献の可能性に言及することはなかった」と、その非現実性を指摘し、「わが国が接触した国々は、多くがわれわれに誠意を示してくれたが、今日の国際社会は『一夫当関』(一人の兵が要害の関を守っていれば、一万の衆もそこを破れない。つまり安保理で中共の拒否権を指す)が現実であり、多くの国が不合理を認識していても、一時の困難のため、わが国への支持を公開できない状況にある。今後ともわれわれは不撓不屈の精神で努力する。時期が成熟すれば、多くの国々がわが国を支持してくれるようになるだろう」と強調していた。まさに「天は自ら助くる者を助く」というが、第2758号決議に再検討のメスが入れられる日は、やがてきっと来るだろう。
台湾関係法は華米両国にとって有益
程建人・行政院新聞局長が米国で講演
程建人・行政院新聞局長は九月十五日、米アリゾナ州立大学の要請に応じ、同大学での「台湾関係法二十周年シンポジウム」に出席し、「台湾関係法から見た華米関係」という演題で講演し、「米国の国内法である台湾関係法は、華米両国に正式な国交がないなかにおいて、相互関係の安定した発展と台湾海峡の安定を維持し、否定できない貢献をしている」と強調した。
台湾関係法は「台湾の将来を、不買あるいは通商停止を含む非平和的手段により決定しようとするいかなる試みも、西太平洋地域の平和および安全に対する脅威であると見なし、右は米国にとって重大な関心事である」と規定している。程局長はこれについて、「一九九六年に中共がミサイルを試射したとき、米国はただちに台湾海峡に空母艦隊を派遣し、またクリントン大統領が今年六月に中国大陸を訪問したあと、米国は一再ならず台湾関係法による公約を遵守すると明言し、上下両院も前後して台湾支持の決議をしたが、これらはいずれもワシントンが台湾関係法による公約を遵守していることを示す顕著な例である」と語り、ワシントンへの信頼感を示した。
このように米国への感謝を示しつつ、「中華民国は米国と中共が台湾の問題をめぐって、いかなる形であれ、軍事的に対立することを望まない。過去十年間、中華民国は実務的な大陸政策をとり、北京当局との良好な相互連動により、平和的に中国統一を達成するよう望んできた」と述べ、「ただし台北の善意ある建議に対し、北京当局は積極的な回答を示しておらず、江沢民は最近の米マスコミのインタビューでも、台湾に対する武力使用を放棄しないと強調していた。中共のこうした軍事的脅威下において、台湾の二千百八十万住民の安全保障は、きわめて重要な問題になっている」と指摘した。
さらに同法が「米国法が外国、国、政府あるいは類似の存在に言及し、または関連する場合は、常にかかる用語は台湾を含み、またかかる法律は台湾に関して適用される」とも規定しているが、これについては「米国の法律は、中華民国を一つの外国政府と見なし、米外交政策の一環に属していることを示すものだ」と強調した。同時に「米議会は近年来、数度にわたって中華民国の国連、世界貿易機関、国際通貨基金への加盟を支持する決議をしているが、これは台湾二千百八十万住民の権利と利益であるばかりでなく、国際社会の利益にも合致するものである」と指摘した。これに続けて「もちろん中華民国政府は、国連などの国際組織への加盟問題が、政治的にきわめて敏感な問題であることを理解している。しかし非政治的および人道的な組織からは、中華民国は排除されるべきではなく、米国政府が将来、中華民国の国際通貨基金や世界保健機関への加盟を支持することを望む」と表明した。
同時に中華民国政府スポークスマンとして、「華米両国間に正式国交がないという状況下で、相互の往来は米国在台協会および台北経済文化代表処の二つの機関を通じて行われている。ただし相互関係の連動および両国政府関係者の往来は、若干の不合理ならびに不必要な規制を受けている。双方の良好な相互連動を維持するため、米国政府がこの点を引き続き検討し緩和することを望む」と表明した。
最後に程局長は「台湾関係法施行二十周年にあたり、中華民国は同法が継続して両国関係の好ましい将来を開拓する基礎となることを希望するとともに、米国が中共との関係改善を進めると同時に、台北との協力および相互利益の関係も向上させることを期待する」と述べ、「この平行的な関係は、中国大陸の改革をうながすばかりでなく、中華民国の経済と民主の発展にも有益であり、アジア太平洋地域の平和と安定という米国の戦略上の利益にも合致するものだ」と指摘した。
《ロサンゼルス『中央社』9月15日》
省は公的法人ではなくなる
内政部が大法官会議に提示
台湾省政府組織簡素化に関する法案が目下立法院(国会)で審議されているが、内政部は九月十五日、大法官会議(憲法法廷)に「省は公的法人かどうか」に関する意見書を提示した。このなかで内政部は「憲法第一〇八条第二項で省は地方自治体であると規定され、自治権を有することが前提となっているが、憲法一〇九条の台湾省の自治権はすでに凍結されており、したがって第一〇八条第二項はすでに効力を有しない」と指摘した。
さらに憲法第一一三条で、省に属する立法権は省議会が行使すると規定されている件については、「憲法追加条文第九条で凍結されることが明記されており、したがって省議会が第一一三条にある立法権を行使することはできず、これにより十二月二十一日より省政府は公的法人ではなくなる」と強調した。
黄主文・内政部長は同日、これについて一歩進んだ説明をおこない、「公的法人には、国家、地方自治体、農業関連法人の三種類があるが、省政府組織簡素化後は、省は地方自治体ではなくなる。憲法の関連規定から、簡素化後の省が公的法人でなくなることは明白である。現在、この問題に大法官会議が明快な解釈を示すよう望む声が高まっている。大法官会議が早急に憲法解釈を示し、社会の論争や政局の混乱に終止符を打つことを望む」と表明した。
また同意見書は、「省が憲法によって非地方自治体に改組されてからは、省主席および省委員は中央の任命制となり、その職務は行政院の指揮による関連事務をおこなうことが主体となる。したがって省政府は行政院の出先機関となる」と強調している。
憲法第一〇八条に「省は国家の法律に抵触しない限り、単行法規を制定することができる」、第一一三条で「省に属する立法権は、省議会が行使する」とあるが、一九九七年七月制定の修正追加条文第九条で、省自治権の凍結が明記され、現省長ならびに省議会議員の任期は九八年十二月二十日までと規定された。
《台北『自由時報』9月15日》
十月中旬辜汪会見ほぼ決定
海協会が海基会に同意文書
大陸の海峡両岸関係協会(以下、海協会)は九月十五日、台湾の海峡交流基金会(以下、海基会)に書簡を送り、海基会が提示していた許恵祐・海基会副理事長兼秘書長の九月二十一日~二十三日あるいは十月八日~十日の北京事前訪問、ならびに辜振甫・海基会理事長が海基会理事団を率い十月十四日から同十九日まで北京、上海の順に訪問することに同意すると返答した。
これにより許恵祐・海基会副理事長が事前に北京を訪問し、唐樹備・海協会副会長と会見して日程を確認するとともに、会談内容の詳細についても事前検討を進めることになった。なお、現在のところ辜振甫・理事長一行は十月十四日に北京到着、同十七日から上海訪問、同十九日に帰国という日程が組まれている。このうち十八日に上海で汪道涵・海協会会長夫妻が辜振甫・海基会理事長夫妻を京劇堂に招待し、その場において「拘束されない形式」での「辜汪会見」が行われる予定である。
これについて蕭万長・行政院長は九月十五日、立法院において「これは中共の『善意の回答』である。こうした回答は、今後の海基会と海協会の交渉進展に前向きおよび実質的な意義がある」と歓迎の意を表明した。また張京育・行政院大陸委員会主任委員は「海協会の返書は、中共の実務的姿勢および善意を具体化するものである」と評価するとともに「今回予定されている辜理事長と汪会長の会見は、正式な協議や交渉といった性質ではないが、両岸が逐次相互信頼を高めるのに効果的だ。両岸の対話に好ましい結果が得られれば、両岸関係は自然に前進することになろう」と期待を示した。
また蕭院長は同日、立法院において「わが方の立法院と、大陸の人民代表大会との交流はできないか」との質問に対し、「それは対等と尊厳ある立場においてのみ実現できるものであり、政府はそれの実現を期待している。ただし中共は依然その姿勢を示しておらず、現段階ではそうした交流はまだ不可能である」と答弁した。
《台北『中央日報』9月16日》
内外の情勢を把握し国家発展を指導せよ
「国家策略研究班」における李登輝総統講演
李登輝総統は九月八日、行政院「国家策略研究班」第三期研究員に対し、「内外の情勢を掌握し国家発展を指導せよ」と題する講演をおこなった。以下はその全文である。
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変化に変化を重ねた十年
行政院は国家建設の人材を育成するため「国家策略研究班」を主催し、非常に大きな成果をあげている。各位は平時における業績を評価され、推薦を受けてこの講座に参加したものであり、本日ここに各位と会えることを非常に嬉しく思っている。
わが国はこの十年来、急速な変化を経験するとともに、大きな発展も遂げた。この成果を、西側の民主先進国が百年かかって得る成果を、台湾はわずか十年間で達成したと言う人もいる。非常に名誉なことだが、みずからを戒めることが必要だ。実際においてこの十年間は、われわれの一歩一歩がすべて苦難に満ち、時には紆余曲折もしてきたが、正確な方向を進み、意志を強くもち、それによって絶えず困難を克服し、壁を打破し、すべての改革と建設を継続して推進してきた。今日に至り、われわれは新たな基礎の上に、新たな段階における改革と建設のために努力を怠ってはならず、全国民一致して国家のすばらしい将来を創造するため指導していかねばならない。 したがって私は衷心より、各位が日常接している具体的な問題以外にも、広く世界を認識し、大陸を認識し、自己を認識するよう希望する。私は、大所高所に立って眼前のことに着手すれば、かならずや方向を見失うことなく、ことの軽重と優先順位も明確に知ることができる。これは、責任ある国家建設の人材が認識しなければならないことだと私は信じている。
以下の講話は、私が本月(九月)五日に中興山荘において、本党(国民党)立法委員選挙候補者と党の専従同士に対しておこなった講演の概略だが、ここに再度各位に述べるものである。各位も私と同じように感じていることと思うが、これまでの十年間、それぞれが非常に忙しく、われわれの知っている一切が大きく変化した。また、変化したのは台湾ばかりでなく、大陸も変化し、世界もまた変化したのは疑いのないところであろう。
思えば十年前、半世紀近くにわたって世界の国際関係を律してきた東西冷戦がまだ収束しておらず、大陸のいわゆる「改革開放」は声ばかり大きく具体策は少なく、数十年間隔絶していた両岸関係もほんのわずかに交流が始まったばかりであり、わが国内部の改革もようやく歩みだしたばかりであった。十年前、どれだけの人がソ連の崩壊、東西ドイツの統一、両岸交渉の進展を予測しえただろうか。だがこの十年、それらのすべてが現実となったのである。事実、世界も大陸も、それに台湾における中華民国もすべて、構造の変化を遂げ、あるいはまた変化しつつあるのだ。
世界はさらに変化する
世界情勢の変化は、主として三つの分野に分類される。それはわれわれがこれまで何度も提議してきたものであって、すなわち民主化、国際化、情報化である。民主化というのは、これまで世界の多数派であった非民主の国々が、ほとんど民主化に向かったことを指す。この大潮流は誰にもとめられないものであった。ある国は相応の抵抗をし、紆余曲折はしているが、それもすでに時間の問題となっている。
こうした国家は、他人がその国に「和平演変」(平和的手段による社会主義の切り崩し)を仕掛け、民主化を促していると思い込んでいるだろう。しかし事実は、民主化への根源はその国の内部から必然的に沸き起こっているものであり、外部の者はがおこなうのは、その過程が平和的で流血なく進められることを望み、近隣諸国や地域の安定に脅威を構成しないようにすることである。
国際化への変化は明白である。今日、外国に旅行できないという人はいないだろう。外国の経済や文化の影響を受けない人もいないだろう。エイズの病原菌にしろ、国際金融の投機筋にしろ、犯罪にしろ、そうした各種の汚染も同時に、すべての国々に脅威を与えているのである。それらに国境はあるだろうか。「主権」の主張によってそれらを阻止できるだろうか。もちろんできない。
冷戦後の国際社会において、もとより相互間の競争はあり、時には戦争まで発生しているが、最も多いのは協力と協調となっている。大部分の国際組織も、こうした新情勢に対応し、古い規則を改訂するか、あるいは新たな規則を制定しはじめている。したがって今日、貿易、海洋、漁業、保育、環境保護やその他の多くの領域で、新たな規範が定められている。身を地球村の一員として置き、そして中華民国が欠席していたなら、この変化する局面のなかにおいて、誰がわれわれの利益を保護してくれるであろうか。われわれはこれら規範の制定の過程に参加することができず、それでいて決定事項の遵守は要求されている。これは公平だろうか。だからわれわれは常に、われわれが国際組織に参加したいと要求するのは、もとより「台独」への用意でも「一中一台」や「二つの中国」などでもなく、それはわれわれ二千百八十万住民全体の利益を守るための、切実な願望だと主張しているのである。
情報化については、私より皆さんの方が詳しいと思う。今日の情報は瞬時にしてどんなに遠くまでも行き渡る。情報の多い者が、また進歩も迅速となる。米国の経済がここ数年内に復調したのも、米国社会の高度なコンピュータ化と密接な関係がある。いかなる政府も情報を一手に握り、経済の発展も一手にコントロールするのは、まったく不可能なことである。当然ながら、情報化が民主化と国際化の趨勢を強化するものとなった。人々の情報が多ければ多いほど、とくに国境を越えた情報が多ければ多いほど、必然的に思想の変化をもたらし、行動様式の変化をももたらすものとなるのである。 私が各位に民主化、国際化、情報化について述べるのは、各位がいわゆる「三強(米・日・中共)構造」、「台湾海峡トライアングル関係」、あるいは中共当局が推進している「大国外交」などの思考様式を乗り越えるよう希望するからである。かれらは、台湾問題を国内問題とし、大国がうなずけばすべてが解決すると見なしている。私は、これらは常に変動する現象であると思っている。政府が変わり、指導者も変わり、また国民の要求も変われば、かれらも変わるのである。なぜなら、かれらの基盤は非常に脆弱だからである。
われわれが台湾に基礎を置き、国家の前途を考えるとき、視点を前方に据え、周囲の状況に目を配り、現象の本質を見極めることが必要であり、そうしてこそ大局のおもむくとろ、また利害の所在を明確に知ることができ、さらに小さなことに影響されたり、慌てたりすることもなくなるのである。この面においては、わが中華民国の地位は実際には非常に強固であり、それはわれわれが断固として世界の潮流に順応し、歴史の正確な方向に立脚しているからである。ある人は、米国は現在中共に傾斜しつつあると言っている。私はそうは見ていない。米国がおこなおうとしているのは中共に傾斜することではなく、中共を引き寄せ、歴史の潮流に歩調を合わせるようにさせ、少なくとも米国および外部の世界が中国大陸内部における変化の過程のなかに、安定した作用を及ぼすことを求めているのである。したがってそれは中華民国にとって「障害」や「問題」になるものではなく、逆に助力となるものなのである。
大陸は今が変化の関頭
中国大陸について言えば、二十年にわたる経済成長と対外的な部分開放のあと、大陸同胞は徐々に「文化大革命」による悲劇的な陰影から脱却し、物質生活においてはある程度の改善が見られ、精神生活においても若干の柔軟性が見られるようになった。このことはまことに喜ばしいことである。ただし、国際情勢を的確に観察する意味から、われわれは個別の事柄を超越し、統計数字を越え、旅行者の短期的な印象を乗り越えてこそ、大陸の発展の本質を掌握することができ、一方的な思いに陥らず、過度な楽観や悲観に惑わされることもなくなるのである。
今日の大陸情勢の最大の特色は、かれらがいま構造的変化のカギとなる時期に立っているという点である。将来もかれらが一党独裁体制を維持するのか排除するのか、かれらの社会が収まるのか乱れるのか、すべてこの段階における構造の変革が成功するかどうかにかかっている。過去の一時期に実施した「政治は左、経済は右」の方針によって「文革」時代の「政治も左、経済も左」といった方針に修正を加え、大多数の市民生活の改善を促進したものだが、そこには深刻な内部矛盾があり、大陸当局はいまだに反対意見を圧迫しつづけているのである。
だが二十年の量的変化を経て、大陸はいま質的変化の関頭に立っているのである。かれらはまだ左信号を出しながら右折しようとするのだろうか。「左」と「右」の矛盾をどのように解決するのだろうか。どのようにして計画経済から市場経済への道を歩むのだろうか。どのようにして過去のナワシロで育ててきた経済がもたらした問題を解決するのだろうか。どのようにして大きく損なわれた人と生態関係の問題を解決するのだろうか。発展が海岸部に偏った深刻な問題をどのように調整するのだろうか。どのようにして対外開放を進めながら、また同時に内外の区別をつけていくのだろう。これらのことやその他の多くの問題はすべて、大陸当局がますます逃げられなくなり、直面しなければならないものとなってくるのである。
大陸の矛盾と台湾の成功
中共がどのようにしてこれらの問題を処理するのか、われわれの特に注目するところである。なぜなら、まず第一に、そこにはかなり深刻な「不確定要素」が含まれており、中共当局の政策決定の方向も不確定であり、当局の処理能力を越えた変化の発生が考えられるからである。第二は、目下中共が直面している構造的な変化は、規模にしても歴史上まだ見たことのないほどのものであり、問題の多様性と複雑さ、それに根の深さにしても、ほとんど例がなく、時間的にもきわめて切迫しているからである。第三は、われわれは大陸同胞の福祉に関心を持っているが、両岸関係を処理する時間的問題において、こうしたきわめて不確定な要素を慎重に考慮しなければならないからである。
両岸関係において、かれらは大きくわが方は小さく、かれらは閉鎖的でわが方は開放的であり、かれらは専制政治でわが方は民主政治であり、先方は「闘争」の姿勢をもってわが方に対しているが、わが方はかれらに「双方が納得し相互利益を得る」発想をもって双方の関係を考えている。このため「急がず忍耐強く」は確実に現段階においては必要なことなのである。将来、もし中共がわが方に対する敵意を逐次解消していったなら、大陸情勢の不確定要素も逐次減少し、自然に別途の方法が考えられるようになるのである。だが、現段階においては慎重に対処する必要があるのだ。ここ数年、その他の国々も中共に対する政策は、こうした「不確定要素」を根本として考慮するようになった。両岸は一衣帯水であり、交流もまた頻繁で緊密であり、われわれはいっそうこうした根の深い変化を直視しないわけにはいかないのである。
これは決して、われわれが両岸関係をマイナス的な思考で見つめることを示すものではない。実際において、私は総統に就任した当初から、段階的に「漢賊両立せず」の思考方式を放棄して「双方が納得し相互利益を得る」ように改め、さらに両岸関係改善のため多くの具体的建議をしてきた。これらの善意ある建議の大半は無駄になっているわけだが、それの主な原因は、中共当局が依然として古い「闘争」と「併呑」の発想によって新たな両岸関係に対応し、われわれをかれらのいわゆる「一つの中国」の図式のなかに組み込もうとし、わが方を「台独」に進んでいると曲解しているところにある。その結果、われわれが善意をますます強めても、中共は敵意をますます深めていったのである。この不協和音が、今日の両岸関係の最大の問題点となっているのである。
今日、大陸の深層部の変化を見れば、各位はいつか見たものだとは思わないだろうか。それは、われわれもかつて経験し、構造的な変化を完成させてきたからだ。われわれが変化する前において直面していた問題の多様性、複雑さ、それに深刻さは、今日の大陸の状況の困難さには遠く及ばないが、もし「まったく新たに生まれ変わる」といったように形容される、われわれの変化の経験を用いたならばと考えるのは、各位もおよそ同意することと思う。
ここまで話し、私は全国民の努力と歴代政府の卓越した指導に感謝しなければならない。もし歴代政府の先見の明と政策能力、それに国民の勤勉さがなかったなら、われわれは度重なる国際および両岸の危機を乗り切り、高度な経済成長を維持することはできなかっただろう。もし均富の経済基礎と開放され普及した国民教育、それに国民に定着した民主の観念がなかったなら、われわれの民主化の過程はかくも順調には進まなかったであろう。もし全国民の一致した認識と支持がなかったなら、実務外交を順調に推進し、新たな大陸政策を立案することもできなかったであろう。まさしく過去に築かれた堅実な基礎があったからこそ、われわれはこの十年間において、広く言われる「静かなる革命」を推進し、構造の変化を完成させることができたのである。
新たな改革に向かって前進
この「革命」のはじめ、われわれはおよそ四つの方向に向かって進んだ。一は政治の民主化、二は外交の実務化、三は両岸関係の推進、四は経済の向上である。四つの項目のうち、三つについてはわれわれにとってまったく新しい経験であった。それはつまり、民主化と実務外交と両岸関係である。民主化はわれわれに経験がないばかりか、全中華民族にもまったく経験のないものだった。実務外交は過去の外交政策の大転換である。両岸関係は根本的に、無から有を作り出すものであった。したがって当時は、われわれはいくつもの重大な案件を同時に進めたと言えるのである。今にして思えば、当時の度量には本当に大きなものがあったのだ。他の国でこのようにした例は見られない。幸運にも、われわれはそれに成功したのである。
総統直接選挙を順調に完遂し、この四つの項目は完成した。言い換えれば、中華民国はそのときに新たな内部構造と新たな外部との関係を保有するところとなったのである。この構造を確立して以来今日まで、われわれは現有する構造の質的向上を目指してきた。たとえば、行政改革は縦割り構造と横割り構造を簡素化し、行政効率を高めるとともに国際競争力の向上を目指すものとなっている。「心の改革」は、国民が精神と物質の双方を重要視するよう求めたものである。教育改革は、児童・生徒がさらに大きな創造力を持ち、充実した人生を送れるようにするためのものである。司法改革は、さらに高度な正義と協調性のある社会を求めてのものである。科学技術改革は、国の経済実力を継続して高め、ハイテク・アイランドに向かって邁進するためである。
現在のところ、さまざまな要素によってこれらの改革の速度は異なっている。だが私は、いつの日にかこれらが次つぎと開花していくことを信じている。これは私ひとりが思うことではない。なぜなら、客観的に見て国家の方向がさらに大きな進歩に向かっておれば、これらの調整もまた必然的に進められるからだ。
「行政構造の再生」の面から言えば、これまでにも私は、それは十年来の四段階における憲政改革の重要な一環であり、国際競争力と国民の福祉に大きくかかわっていると述べてきた。今日、熾烈な国際競争と均等化された構造を求めるという世界的な趨勢に直面し、もしわれわれが革新を求めなかったなら、新世紀の苛酷な挑戦に対応できなくなってしまうだろう。将来、省政府が簡素化されたとき、最大の受益者は当然ながら、省民を含む全国民となるはずである。
新たな世紀に向かって
蒋経国・前総統は、かつて「今行動しなければ、明日後悔することになる」と述べた。われわれの子孫たちが、常に変動してやまない国際環境と、対岸情勢のきわめて不確定な状況のもとにおいて、引き続きわれわれの優勢を維持できるようにするため、われわれは行政府の効率をいっそう高め、また一人ひとりがいっそう創造力を養わねばならないのである。これらの改革は、絶対に必要なことなのである。もちろん、いかなる調整の過程においても、必ず人々は陣痛の苦しみを感じるはずである。このことを私は十分に理解している。各位が一致協力し、この調整の時期を迅速に乗り切ることを願ってやまない。
常に思うことだが、台湾は非常に変化に富んだところであり、面積は大きくなく、人口も多すぎるとは言えないが、政治的には相当に複雑なものがある。この原因は、台湾には先住民のほか、同時に中国大陸と外国の影響を吸収しているところにある。外国とは、米国、日本、オランダ、スペインなどである。中国大陸について言えば、早くからの移民であるミン南人は、さらに泉州、ショウ(さんずい+章)州に分けられる。最近になってまた大陸の各地から移民した人々が、異なる食習慣、言語、生活習慣をもたらした。このほかにも、台湾は伝統と近代を融合し、さまざまな宗教を受け入れてきた。だからある意味においては、台湾は中国の縮図であり、同時に新旧中国文化、それに東洋の文化と西洋の文明を混合したところと言えるのである。
今日の国際および両岸関係のなかにおいて、われわれの対外政策に大きな誤りはないが、実務と理性が必要であり、注意深く一歩一歩進まなければならない。やらなければならないことは、勇気をもって前進することである。やってはならないことは、実験的なことである。われわれは世界に向かって、外界がわれわれの生命力と意志を過小評価するのは誤りであることを伝える一方において、みずからを世界に向かって開放し、大陸との交流を進め、われわれの「台湾経験」を分かち合うよう求めていかなければならない。
時代の挑戦は、日増しに激しくなっており、国民の政府に対する期待も、時とともに増加している。数十年来、われわれは挑戦を恐れず、挑戦がわれわれを団結させ、強固にしてきた。だが、国民の政府に対する指摘を、われわれは虚心坦懐に受けとめねばならず、欠点があれば、必ず修正に努力しなければならない。「公平で正義のある新社会、安定し繁栄したすばらしい生活」はスローガンだけのものではなく、われわれと全国民の神聖な契約であり、国民の願望を決して一場の夢に終わらせてはならない。今日、われわれは台湾に拠って立ち、世界に向かい、大陸に向かい、未来に向かって、最大の能力を持ち、最大の決心をもって中華民国を二十一世紀に導かねばならない。
(完)
台湾にもっと自信を持て
李総統が立法委員に語る
李登輝主席は九月十日、国民党中央政策会の主催した行政部門党政策シンポジウムにおいて、二十七名の国民党立法委員の意見を聴取した。各立法委員の意見は、東アジア金融危機以来、台湾もその影響を受け貿易の伸び悩みから経済不振がつづいている点に集中した。このため李登輝主席は、「多くの人が経済の不振を指摘するが、今年のわが国経済の成長率は下方修正したとはいえ、世界経済の状況が非常に困難なとき、わが国が五%以上の経済成長率を保っていることは、容易なことではない」と語り、さらに外国金融機関や企業の台湾への評価が非常に高いことを例にあげ、「皆さんは台湾に対してもっと自信を持たなければならない」と叱咤激励した。
また多くの立法委員が、「立法院と立法委員の地位がますます軽視される傾向にある」と指摘し、とくに「立法院職権行使弁法第十三条の規定に、行政部門が立法院に送付した法案が二年を経ても審議通過しなかった場合、行政部門は同法案の立法化が完成したものと見なすとあるのは、国会軽視であり、憲法違反ではないか」との指摘に対し、李主席は「これは非常に重要な問題だ。立法、行政部門とこの問題を十分に検討したい」と同法修正に前向きな姿勢を示した。また現在の立法院が手狭で移築の問題も提議されたが、これについても「台北市政府と交渉し、適切な場所をさがしたい」と表明し、その場で蕭万長・行政院長に検討を進めるよう指示した。
《台北『中央日報』9月11日》
中華民国外交部プレスリリース
友好国の国連参加支持表明に感謝
一九九八年九月十二日
第五十三回国連総会総務委員会は米国東部時間本年(一九九八年)九月十一日午前、総会臨時議題について会議を開き、ブルキナファソ、セネガル、リベリア、サントメプリンシペ、ガンビア、スワジランド、グレナダ、エルサルバドル、ニカラグア、セントビンセント、ソロモン諸島など十一カ国の友好国が要求していた「国連総会第二七五八号決議の再検討」を正式の議題にするかどうかを審議した。
同総務委員会での審議において、総務委員会を構成する二十八カ国のうち十九カ国の代表が発言し、このほか三十七カ国の代表も出席して発言した。このうち、セネガルなど十六カ国の代表が、わが国の国連参加を第五十三回国連総会の正式議題に入れることを強く支持する発言をしたが、パキスタンなど四十カ国の代表が反対を示す発言をし、その他のアメリカ合衆国、イギリス、フランスなど九カ国の総務委員会構成国の代表は発言しなかった。総務委員会委員長のオペルティ総会議長はわが国に関する件が十分に討論されたあと、コンセンサスが得られなかったとして、同臨時議題を今期国連総会の正式議題として取り上げないことを裁決した。
本案は十一カ国の友好国によって本年七月八日、国連事務総長に提出されたあと、第五十三回国連総会臨時議題案となり、中国語、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、アラビア語など六種類の言語に翻訳され、国連加盟各国に送付された。その後、マラウィ、チャド、ドミニカ、パナマなどの四カ国が同案に連署し、本年は十五カ国が同案の共同提案国となった。
本年の友好国の提議は昨年の訴えを引き継ぐものであり、国連総会が国際情勢に重大な変化が発生していること、および両岸が分治されている現実を踏まえ、第二七五八号決議に検討を加え、ならびに分裂国家が国連に同時加盟している先例にならい、わが国が国連に参加することの正当性および合理性を説明するものであった。本年も同案はふたたび中共の横暴な阻止に遭い、第五十三回国連総会の正式議題に入れられることはなかったが、政府のいささかもゆるがせにしない努力のもとに、わが国の国連に加盟することができない境遇、および中共のわが国を横暴に圧迫する覇権主義的傾向を、あらためて国際社会が了解するところとなり、わが国が今後、国際活動の場を開拓し、国際間における支持を獲得することに対し、直接的な意義を生むものとなった。
中華民国政府はこの場を借り、わが国のために同案を提議し連署してくれた前述の十五カ国、および総務委員会において十六カ国が圧力を拒否し、正義を堅持し、わが国のために発言してくれたことに、重ねて衷心より感謝の念を表明するものである。また、中共およびパキスタンなどの四十カ国が、今日の国際協調の趨勢をも顧みず、故意にわが国の地位を矮小化し、両岸分治の事実を歪曲した行為に対し、深く遺憾の意を表明する。中華民国政府はここにあらためて、わが国が国連に参加しようとするのは、中共が国連において現有する議席に挑戦しようとする意思によるものではなく、また、国家の将来における統一の目標を放棄したものでもないことを表明する。わが国は、国際社会ならびに中共当局が、広い視野と実務的な姿勢をもって、真摯に中華民国の国連への参加を考慮し、国連憲章の掲げる公平と正義の原則を真に具現化することを望むものである。 (完)
(総務委員会における中華民国の国連参加問題に対する討議は、年々真剣さが増してきており、本年の討議は二時間五十八分にわたった。なお一九九五年は二時間四十七分、九六年は二時間、九七年は二時間四十五分で、休憩時間においても各国代表による個別の討論もしだいに白熱化してきており、この問題の国際間における認識の高まりを示している。中華民国政府は、今後とも努力を続けることを言明している)
行政院大陸委員会定例記者会見
行政院大陸委員会(8月28日)
許(きへん+可)生・行政院大陸委員会副主任委員は八月二十八日、定例記者会見をおこない、記者の質問に対し以下のように答えた。
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一、
中共が最近示した「四つの”べからず”」(「社会制度の差を理由とする統一の拒否・防衛装備の強化・外交活動・直接三通の拒否」 をやめるよう台湾に要求)に、わが方はどのように対応するのか。
答:
ここで政府の大陸問題処理の政策について再度説明したい。現段階では「一つの分治された中国」というのが、両岸関係の合理的な位置付けである。政府の大陸政策は、この基礎のもと、両岸の交流と交渉を通じて徐々に意見の相違を解消し、相互信頼を打ち立て、将来の「自由・民主・均富」による統一のための基礎を確立することだ。李登輝総統は七月二十二日、国家統一委員会において、「中国の再統一は段階的に進めるべきで、期限をあらかじめ設定せず、大陸の民主化と両岸関係の発展を見てスケジュールを決定すべきだ」と具体的に指摘した。この目標が達成されるまで、われわれは、自らの安全確保および国際活動の場を求める権利や基本的要求を当然保持するのだ。目下、大陸当局は台湾への武力使用を放棄せず、両岸分治という政治的現実を認めず、人権保障や民主政治などの必要な政治・社会改革をおこなおうとしていないが、これこそが、両岸関係の改善を妨げている根本的原因なのである。言い換えれば、大陸当局のこうした態度が、いわゆる「四つの”べからず”」を生む結果となったのだ。
大陸当局は、両岸の政治的現実に向き合い、「分治」の観点から関連事務を処理し、同時に、台湾に対する武力使用を放棄し、両岸住民の福祉や国際社会の普遍的な期待に沿った形で双方の意見の隔たりを解消すべきである。とくに、両岸の両会(台湾側の「海峡交流基金会」と大陸側の「海峡両岸関係協会」)が接触を再開し、双方の交渉の道が再び開かれようとしている今、大陸側は積極的かつ建設的な態度や行動によって、前提条件を設けず、わが方と共同で両岸の制度化された交渉の早期回復を促すべきだろう。さらに、われわれは大陸側に対して、両岸住民の権益保護を最優先し、既存のパイプを通して、双方がともに関心を持つ問題を解決する道を探るよう呼びかけたい。最近、大陸でわが国住民の安全に関わる事件が起きているが、大陸側のある種の懸念によって、制度化された処理メカニズムが十分に利用されず、このため当事者であるわが国住民の意見を尊重した妥当な処理ができないことは大変遺憾である。このことはまた、こうした問題を既存の制度化されたパイプによっていかに効率的に解決するのかが差し迫った問題となっていることを示している。両岸にはもともと「制度の競争」が存在している。近年来、大陸当局は積極的に改革を推進し、近代化の軌道に乗ろうとしているが、これはいうまでもなく、硬直化した体制を転換し、内外のさまざまな挑戦に対抗するためなのだ。われわれは、一貫して両岸の良好な「制度の競争」を歓迎しており、またこうした競争で真に利益を受けるのはすべての中国人だと深く信じている。
二、
最近、大陸側はしきりに言論によってわが方に揺さぶりをかけているが、これは「辜汪会談」の進展に影響を与えるのか。
答:
交流と実務的協議の強化は政府の一貫した政策である。交流を強化しなければ、相互の意思疎通と理解を進め、誤解や敵意を解消することはできない。辜振甫・海基会理事長の大陸訪問は、両会の制度的な交流の扉をふたたび開くものであり、既定の計画に沿って進められる。
三、
辜理事長の大陸訪問の日程は確定したのか。
答:
目下検討中であり、適当な時期に大陸の海協会に返書を送ることになろう。
宝島あれこれ
不景気に勝つ! 月餅商戦
今年も「月餅」の季節がやってきた(今年の中秋節は十月五日)。 にわかには信じがたいが、台湾の「月餅市場」は年二十億~三十億元(約八十億円~百二十億円)もの規模があるという。不景気の影響が心配されるとはいえ、今年もかなりの売上が見込まれており、これが中秋節の頃に集中するとあって、台湾では各メーカーしのぎを削る「月餅商戦」が繰り広げられている。
今年の特徴は、販路拡大のために一部の製菓業者がまったく門外漢の業者とタイアップを始めたことだ。「元祖食品」では、全国でチェーン展開しているガソリンスタンド、美容院、クリーニング店での予約販売に乗り出した。消費者は、最寄りの提携店で月餅と交換できるチケットを購入し、「元祖」の直売店で商品を受け取るシステムだ。これらのチェーン店は全国津々浦々にあり、「元祖」は一気に七百以上の新たな販売拠点を手に入れたことになる。
一方、「禮坊」はコンビニと手を組む戦法に出た。これは台湾では初の試みで、これからは、二十四時間いつでもコンビニで月餅が買えるというわけだ。
また、今年初めて「月餅商戦」に参加した業者もある。ある有名なレストランでは、わざわざ外国からお菓子職人を招いてアドバイスを受け、新しい月餅を作り出した。今年初めてということもあり、数量限定で売り出し、出足は好調とのこと。
味の面では、ここ数年続くヘルシー志向を意識して、糖分を控えめにしたものが主流となっている。とくにパイナップルやイチゴなどフルーツ風味のものや、中身の餡を二重にしたものが今年の流行で、餡の中にヨーグルトを挟んだ月餅まである。
お茶風味の餡は今年も健在で、緑茶やウーロン茶以外に、紅茶風味も登場。さらに昨年話題を呼んだ、漢方の薬材を使った「薬膳風味」は、今年になってさらにメーカーが増え、新しい味も続々と生まれている。
甘いものが苦手な向きには「塩味」の月餅がお勧めだ。「新東陽」は今年初めて、干し肉を使った餡を開発し、消費者の新たなニーズを開拓しようとしている。 また、消費者の好みの変化は月餅のサイズにも見られ、二、三口で食べ切れる小ぶりのものが中心となり、かつての家族で分け合って食べる大きな月餅は姿を消しつつある。月餅はそもそも「家族団欒」の象徴だったはずだが、これも家族観の変化で仕方がないことなのだろう。
このほか意外なところでは、商売熱心な貴金属業界が、月餅にあやかろうと「金の月餅」を売り出した。純金を中空の月餅の形にしたもので、もちろん食べることはできないが、赤い布の箱に入った様子は本物そっくり。しかも数種類の「味」があり、値段は五千元から七千元(約二万円~二万八千円)だという。恋人に贈るには適さないかもしれないが、ウケ狙いにはぴったりかも。
《台北『中央日報』9月5日他》
お 知 ら せ
「新竹石◆(クレ)教会聖歌隊」 伝道旅行
台湾の玉山神学院の二宮宣教師の率いる聖歌隊が来日し、伝道のためのコンサートをおこないます。
期 間 10月16日(金)~26日(月)
会 場 調布柴崎伝道所、更生教会 (18日13:30一般向コンサート)他
問合せ 「二宮宣教師を支える会」 ℡0422-31-1279 Fax0422-34-4329 カンバーランド長老東小金井教会 萩生田(ハギウダ)牧師
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李銘盛展「身長◇cmの私」
自分自身の肉体を直接メディアとする過激なパフォーマンスで、台湾だけでなく世界的に注目される李銘盛氏の個展が横浜で開催中です。今回の個展では、氏の身長を全体の物差しとして、さまざまな表現が多面的に展開されます。[入場無料]
日時 9月26日(土)~10月25日(日) 午前10時30分~午後5時30分
会場 横浜美術館アートギャラリー 横浜市西区みなとみらい3-4-1 ℡045-221-0300(代) 休館 毎週木曜および10月12日(月)
文化・芸能ミニ情報
台北新交通システムに女性運転手が誕生
台北新交通システムに十名の女性運転手が誕生することになった。このニュースは、女性初ということで当初から注目を集めていたが、女性運転手十名は数カ月の訓練を経て、この度初乗務に向けて準備を整えた。
「台北新交通システム女性運転手募集」が始まったばかりのころは、二百名余りの応募があったが、試験科目に「二十キロの砂袋を担ぐ」という項目があったため、その後応募者が激減して最終的には約六十名が試験に臨んだ。そして筆記試験、面接試験をおこない、最後に十名が合格した。
訓練は厳しかったが、途中でやめる者は一人もいなかった。その中の一人、蔡蓮珠さんは「実習の後、車両を点検中に落とし物のの帽子を見つけ、それを持ち主に渡した時に乗客が見せた嬉しそうな笑顔を一生忘れることはできない」と語っていた。
《台北『民生報』7月15日》
二〇〇〇年に「陶磁器展」日本を巡回
二〇〇〇年六月から二〇〇一年にかけて、国立歴史博物館が所蔵している陶磁器などを集めて「中国古代陶磁器展」が日本で開催されることになった。開催地は、福岡、長崎、広島、北海道の四カ所の博物館で、各博物館を巡回する予定である。
展示品は、有史以前の陶器、漢代の陶器などで、中国古代の陶磁器と庶民の生活を紹介する。展示品の中には、国立博物館から初めて出展される作品もある。
《台北『民生報』9月6日》
日本の人気レスラー訪台
日本のプロレス界の人気レスラーでnWo軍の蝶野正洋さんと武藤敬司さんがそろって訪台した。台湾のプロレスファンにとっては二人がいつ台湾でリングに立つかということが一番気になるところだが、武藤さんは「良い対戦相手がいて、紹興酒を御馳走してもらえれば、いつでも来ます」とユーモアたっぷりに語っていた。
当日は大雨の中、会場に数百人のファンが集まり、蝶野さんと武藤さんは、覚えたての北京語で「謝謝(ありがとう)」とファンに答え、また、蝶野さんはIWGP(八月にヘビー級タイトルを奪取)のチャンピオンベルトをファンに披露した。
《台北『中央日報』9月7日》
「施翠峰記念展」開催
画家の施翠峰さんは高崎芸術短期大学(群馬県)で客員教授を十五年務めているが、このたび同大学では施さんの美術教育の貢献を讃えて「施翠峰画家歴五十五年記念展」を開催した(九月四日~同九日)。
施さんの個展は高崎市立美術館でおこなわれ、作品は油絵と水彩画など各三十点で、その中には、台北市立美術館、順益原住民博物館、台北県文化センターに収蔵されている七点も含まれている。
《台北『民生報』9月9日》
アジアAAA野球大会、準優勝
第三回アジアAAA野球選手権大会の決勝戦が日本の甲子園球場でおこなわれたが、台湾は開催国の日本に一:二で破れ昨年と同じく準優勝に終わった。
日本の先発は予想通り松坂大輔投手(夏の高校野球の優勝投手)だったが、台湾は二回に先取点をあげた。 試合終了後、表彰式がおこなわれ、台湾は先発の郭泓志投手ら四人がベストナインに選ばれた。
《台北『民生報』9月14日》
台湾で白熱したレガッタ競技
宜蘭県(台湾の北部)の蘭陽地区で「98宜蘭杯国際名門大学レガッタ(ボートレース)」がおこなわれた。九カ国・地域から十四チームが参加し、台湾は輔仁大学が七位と健闘した。優勝はドイツのハンブルグ大学。 当日、蘭陽地区は強い日差しが照りつけ、各地から世界レベルのレガッタ競技を一目見ようと冬山河に観衆が集まり、声援を送った。
前日におこなわれた予選では、輔仁大学は早稲田大学とエール大学(米国)に勝ち、この組のトップで予選を通過した。台湾からはもう一チーム海洋大学が出場し、十四位という結果だった。
《台北『民生報』9月14日》
台湾映画祭・大阪
東京会場に準ずる大規模開催となる「台湾映画祭」が十月中旬から大阪で始まります。大阪会場だけのプレミア上映作品二本、特別上映作品三本を含め、李行監督の古典的名作からキン・フー(胡金銓)監督の傑作武侠映画、八〇年代の台湾ニューシネマ、九〇年代の新作まで全三十七作品が一挙連続上映されるこの機会をぜひお見逃しなく。
[プレミア上映]
『ラヴ ゴーゴー』(97年):『熱帯魚』の陳玉勲監督のラブ・コメディ/『河』(96年):蔡明亮監督の九七年ベルリン映画祭銀熊賞受賞作
[特別上映]
『青春のつぶやき』(96年)林正盛監督/『超級大国民』(95年)萬仁監督/『藍月』(97年)(きへん+可)一正監督
上映プログラム
原則として連日①10:30、②12:40、③14:50、④17:00、⑤19:10より五回上映[各回入替制]
10/17(土)①あひるを飼う家②我らの隣人③ラヴ ゴーゴー[プレミア上映とシンポジウム]⑤熱帯魚
/18(日)①龍門客棧②侠女・上集③侠女・下集④天下第一⑤忠烈図
/19(月)①原郷人②君を送る心綿々③路④海辺の女たち⑤バナナ・パラダイス
/20(火)①光陰的故事②ある女の一生③娃娃(ワワ)と仔豚④恐怖分子⑤無言の丘
/21(水)①夫殺し②梅花③村と爆弾④さよなら再見⑤多桑-父さん
/22(木)①大輪廻②チュンと家族③墓荒らし/笛吹きの恋④恋人たちの食卓(16:40~)⑤赤い柿
/23(金)①淡水行き最終列車②青春神話③坊やの人形④青春のつぶやき⑤悲情城市
/24(土)①梅花②龍門客棧③侠女・上集④侠女・下集⑤超級大国民
/25(日)①海辺の女たち②あひるを飼う家③さよなら再見④藍月⑤赤い柿
/26(月)①多桑-父さん(10:00~)②天下第一③ある女の一生④青春神話⑤大輪廻
/27(火)①坊やの人形②墓荒らし/笛吹きの恋③君を送る心綿々④熱帯魚⑤悲情城市
/28(水)①我らの隣人②路③恋人たちの食卓(14:35~)④忠烈図⑤光陰的故事
/29(木)①バナナ・パラダイス(10:00~)②恐怖分子③淡水行き最終列車④村と爆弾⑤無言の丘
/30(金)①娃娃(ワワ)と仔豚②夫殺し③チュンと家族④原郷人⑤河
[プレミア上映]
●10月17日(土)シンポジウム
テーマ「台湾映画の未来を語る」パネリスト:陳玉勲監督、暉峻創三氏(映画評論家) ※『ラヴ ゴーゴー』主演女優・堂娜さんの舞台あいさつ有り
期間 10月17日(土)~10月30日(金)
会場 心斎橋パラダイスシネマ(地下鉄御堂筋線心斎橋駅下車アメリカ村内 ℡06-282-1460)
料金 (特別鑑賞券)一回券千円、五回券四千五百円/(当日)一回券千二百円均一/プレミア上映作品のみ前売り千五百円、当日千八百円(劇場窓口販売のみ)
問合せ 台湾映画祭関西事務局 ℡06-314-2260(ソフトシューズ内)
大阪での台湾映画上映企画
●侯孝賢初期作品集
上映作品:『ステキな彼女』、『風が踊る』、『風◆の少年』、『冬冬の夏休み』、『ナイルの娘』、 『童年往時-時の流れ』
期間 10月17日(土)~30日(金)
会場 第七芸術劇場℡06-302-2073
●『Jam』ロードショー
東京公開時にも話題を呼んだキュートでポップな新世代ムービー
監督 陳以文 主演:六月、蔡信弘
期間 10月17日(土)~
※10月24日(土)以降はレイトショーのみ(20:55~)。レイトショーは日曜休映。
会場 テアトル梅田℡06-359-1080
春夏秋冬
米国防総省の付属機関である国防大学が九月二十四日に、米国を取り巻く安全保障情勢に関する一九九八年版の「戦略評価」を公表したが、そのなかで台湾をめぐって米中(共)間で「二〇一八年までに決定的な対立が起こる可能性がある」との予測を立てている。そして米軍と日本を守るための防衛力を、米国が堅持するように提唱している。これは国防総省のシェルトン統合参謀本部議長に提出され、米国安保政策の重要な参考資料とされるものである。
いま日本の対中(共)関係で最も大きな問題となっているのは、クリントン大統領が上海で表明したいわゆる「三つの不支持」(二つの中国と一中一台、政府を単位とする国際機関への参加、台湾独立を支持しない)に対する処し方であろう。だがこれは非公式の場での表明であり、しかも国内的に最近艶聞で罷免されかねない状態となっているクリントン大統領が、対中(共)外交で点数を上げようとして、彼の演説が中国大陸全土で華々しく放映されるという交換条件で北京当局におもねたものであると言っても過言ではなく、つまり多分に自己保身的なものだったのである。
現実を見れば、前述の「戦略評価」に見る「決定的な対立が起こる可能性がある」のが、米国が本心から予測していることであり、同時にこの「戦略評価」は、その場合に米国はどう対応するかを示唆したものでもある。ここにおいて、もし日本がクリントン大統領の、なかばヤラセと言ってもいいほどの「三つの不支持」表明に乗っかり、いつになるか分からないが、やがて江沢民が日本に来たとき、日本の首相が北京におもねて同じような表明をしたなら、それは米国の本心や対処方法を見極めていない危険な発言となり、日本の安全保障にとって由々しき問題となるだろう。このことを、今のうちに強調しておきたい。
米国防大学の「戦略評価」こそ北京の本質を見極めた内容となっており、日本の対中(共)政策ならびに安保政策も、これを基礎に考慮すべきであろう。北京はこれから江沢民の訪日をめぐり、さまざまな圧力を日本にかけてくることであろう。そこで日本がその場の波風を嫌って安易に妥協し、たとえ非公式の場であっても「三つの不支持」に同調することのないよう望むものである。
もちろんこれは台湾のためだけでなく、日本の安全保障にかかわる重大問題であり、重ねて日本のためにも熟慮し毅然たる姿勢を示すことを望む。東アジアの安定を考えた場合、北京がかたくなに拒否している「台湾への武力不使用宣言」をこそ、江沢民に強く迫るべきであろう。
(JC)
お 知 ら せ
祝 中華民国八十七年双十国慶節
十月十日の国慶節を記念して、さまざまな催し物がおこなわれます。
日 時 10月10日(土)午前8時~
会 場 横浜中華学院校庭、横浜中華街ほか
内 容 運動会(中華学院校庭) 午前8時~11時
中華芸術表演会(同) 午後12時~2時15分
祝賀会(同) 午後2時半~2時45分
祝賀パレード(中華街) 午後2時45分~4時5分
獅子舞(山下町全域) 午後4時半~8時
※雨天の場合は運動会と中華芸術表演会が中止になります。
問合せ 横浜華僑総会 ℡045-681-2114 fax045-201-2855