蔡英文・中華民国(台湾)第14代総統 就任演説 (全文)
蔡英文・中華民国(台湾)第14代総統および陳建仁・副総統と夫人は5月20日午前、総統府前広場で行われた就任祝賀大会に出席し、蔡総統が就任演説を行った。
以下はその全文である。
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友好国の元首およびご来賓、各国の駐台使節および代表、会場の皆様、国民の皆様、こんにちは:
感謝と責務
先ほど、私と陳建仁氏は総統府において、中華民国第14代総統および副総統就任を正式に宣誓しました。我々はこの土地が我々を育くんできたことに感謝し、国民の我々への信任に感謝いたします。さらに最も重要なことは、この国の民主主義のメカニズムにより、我々が平和的な選挙プロセスを通して、3度目の政権交代を成し遂げると共に、様々な不確定要素を乗り越え、4カ月間の長い引継ぎ期間を順調にクリアし、平和的な政権移行を実現できたことに感謝します。
台湾は再び行動により、民主的で自由な人々として、我々は確固たる信念を持ち、民主主義と自由な生活方式を守ったことを世界の人々に伝えたのであり、このプロセスに我々一人一人が参加したのです。親愛なる台湾の皆様、我々は成し遂げたのです。
1月16日の選挙結果について、人々が新総統、新政権を選ぶことに期待したのは「問題解決」の4文字にほかならないことを皆様に申し上げます。現在、台湾を取り巻く環境は厳しいものであり、執政者が怯まず前進して責務を担う必要に迫られているのです。私はこの点を決して忘れることはありません。
現在の様々な問題に、我々は誠実に向き合わなければならず、これは我々が共に担っていかなければならないものであると皆様にお伝えします。したがって、本日の演説は一種の呼びかけであり、私は全国民の皆様に、この国の未来を共に担っていくことを呼びかけるものであります。
国はリーダーにより偉大になるのではなく、国民全体が共に奮闘してこそ、その国が偉大になるのです。総統は支持者を団結させるだけではなく、国全体を団結させるべきなのです。団結はイノベーションのためであり、これは私がこの国に対し、最も深く期待していることです。私はこの国にチャンスを与えていただくことにより、我々が先入観および過去の対立を棄て、新しい時代へ我々の使命を繋いでいくことを共に実現できるよう、切に呼びかけるものであります。
我々が共に奮闘する過程において、私は総統として全国民の皆様に、私と新政権は今後、この国の改革を先導し、決意を具現化し、決して怯むことはないと表明いたします。
若者のために、より良い国家を構築
未来への道は決して平たんなものではなく、台湾はあらゆる問題に正面から立ち向かう新しい政権を必要としています。私の責任はこの新政権を先導していくことです。
我々の年金制度は、改革しなければ、破たんすることになります。
我々の硬直化した教育制度は、徐々に社会の流れから逸脱してきています。
我々のエネルギーと資源は、きわめて限られており、我々の経済はパワーに欠け、受託生産の古い生産モデルは、すでにボトルネックに直面しており、国全体が、新しい経済発展のモデルをきわめて必要としています。
我々の人口構造は、急速に高齢化していますが、高齢者の長期介護システムはまだ不完全です。
我々の人口出生率は、引き続き低下しており、十分な託児制度は終始、目途が立っていません。
我々の環境汚染問題は、依然として深刻です。
我が国の財政は決して楽観視できません。
我々の司法は、すでに人々の信頼を失っています。
我々の食品安全問題は、全家庭を悩ませています。
我々の貧富の差は、ますます深刻になっています。
我々の社会のセーフティーネットには、まだ多くの漏れがあります。
最も重要で、私がとりわけ強調したいのは、我々の若者が低賃金の状況に置かれていることです。若い人たちの人生は、身動きできず、将来に対し、無力感と不透明感に満ちているのです。
若者の未来は、政府の責任です。若者が暮らしやすい構造へと変えることができなければ、いかに逸材が輩出したとしても、若者全体の境遇を改善することに繋がりません。私は今後の任期中、根本的な構造から、この国の問題を一つ一つ解決してまいります。
これは私が台湾の若者のために行いたいことです。私はすべての若者の昇給を直ちに実現することはできませんが、新政権は直ちに行動に移すことを公約いたします。どうか我々に時間を与えて、我々と共に改革の道を歩んでいただきたいと願っています。
若者の境遇を変えることは、国家の境遇を変えることでもあります。国内の若者に将来がなければ、この国の将来もあるはずがないのです。若者の苦境脱出を支援して世代の正義を実現し、よりすばらしい国を次の世代の人々の手に渡すことが、新しい政府の重要な責任なのです。
一、経済構造の転換
よりすばらしい国家を構築するために、今後新政権はいくつかの方策を行ってまいります。
まずは、台湾の経済構造の転換です。これは新政権が必ず取り組んでいかなければならない最大且つきわめて困難な使命です。我々はむやみに自らを卑下してはならず、自信を失ってもいけません。台湾には他国にはない多くの優位性があり、我々は海洋経済の活力と強靭性、実務的で信頼できるエンジニア文化、完備された産業サプライチェーン、敏捷で活力ある中小企業、永遠なる不撓不屈の起業精神があります。
我々が台湾経済のイノベーションをしようとするには、今から決意し勇敢に別の道を歩んでいかなければなりません。この道は、台湾経済発展の新しいモデルを構築することです。
新政権はこのイノベーション、雇用、分配を核心的価値観とし、持続可能な発展ができる新しい経済モデルを追求してまいります。改革の第一歩は、経済の活力と自主性を強化し、世界および地域とのつながりを深め、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)といった多国間および二国間による経済連携および自由貿易交渉への積極的な参加を図っていきます。また同時に、新南向政策を推進し、対外的な経済の形態および多元性を強化し、従来の単一市場に依存し過ぎた現象と決別するようにします。
そのほかにも新政権が、新しい成長エネルギーを大いに刺激してこそ現在の経済が低迷し足踏みしている状況を乗り越えることができるものと確信しています。我々は輸出と内需を2つのエンジンとし、企業の生産と人々の生活を相互に補い合い、対外貿易と地元経済が緊密にリンクするよう図っていきます。
我々は5項目のイノベーション、研究開発計画を優先的に推進し、これらの産業を通して、台湾の世界競争力を再び作り上げるようにしていきます。我々は積極的に労働生産力を引き上げ、労働者の権利を保障することにより、給与と経済成長力を同時に向上するようにしていきます。
これは台湾経済発展の鍵となる時であり、我々には決意があり、意思疎通力もあります。我々はすでに系統立てた計画があり、今後は省庁の枠組を越えた連携モデルで、国全体の力を集結させ、この新モデルを早期に実現できるようにしていきます。
経済発展と同時に、我々が忘れてはならないのが、環境への責任です。経済発展の新しいモデルは国土計画、地域の発展、環境の永続性と相互に結びついていくものとなります。産業の展開と国土の利用については、ばらばらな計画や目先の利益といった考えを止めるべきです。我々は地域のバランスある発展を追求していかなければならず、これは、中央の政府が計画、統合していく必要があり、地方自治体も地域が連合して治めるという精神を大いに発揮していく必要があります。
我々はもはやこれまでのように、天然資源および国民の健康を際限なく浪費することはできません。したがって、様々な汚染の規制に対し、我々は厳格にハードルを設け、台湾が循環型経済の時代に向かって歩み、廃棄物を再生資源へと転換できるようにしていかなければなりません。エネルギーの選択について、我々は持続可能な考えで、徐々に調整してまいります。新政権は世界的な気候変動、国土保全、災害の予防などの関連テーマを厳粛に捉えています。それは、我々には1つの地球があるだけであり、1つの台湾があるだけだからです。
二、社会のセーフティーネットの強化
新政権が取り組まなければならない2つの目のテーマは、台湾社会のセーフティーネットを強化することです。ここ数年、子供たちの安全および無差別殺人に関するいくつかの事件は、社会全体を驚愕させました。しかし、政府は永遠に驚いているだけではなりません。必ずや思いやりの心をもたなければなりません。被害者の家族に代わってその悲痛さを背負うことができる人はいませんが、不幸な事件が発生した際、政府、とりわけ第一線で問題を処理する人は、被害者およびその家族に、政府はそれらの人々の立場に立っていると感じられるものでなければなりません。
思いやりの心のほか、政府は解決方法も提起すべきです。悲劇の再発を全力で防ぎ、治安、教育、心の健康、ソーシャルワークなど各方面から、セーフティーネットからの漏れを積極的に補っていかなければなりません。とりわけ治安と反薬物の実務についてです。これらについて、新政府は最も厳粛な姿勢と行動で対処していきます。
年金改革について、これは台湾の生存、発展に関わる鍵となる改革です。我々は躊躇すべきではありませんが、軽率に前進してもいけないのです。陳建仁・副総統が召集人となった年金改革委員会は、すでに活発に準備を行っている最中です。過去の政権は、この問題において、努力はされてきましたが、社会からの参加が不足していました。年金改革は、話し合いを通して、全ての人が団結するプロセスが必要であることから、新政権のやり方は、全体を集めて話し合いを行うものであります。
これはなぜ、我々が年金改革の国是会議を招集しようとするかであり、異なったレベルや職業の代表により、社会団結の基礎の上で、共に話し合うものです。この1年以内に我々は実行可能な改革方案を提出します。企業労働者、公務員いずれを問わず、国民一人一人がリタイヤ後の生活に公平な保障を得ることができるようにしていきます。
また、長期介護のテーマについて、我々は良質で価格を抑えた、一般的な長期介護システムを確立してまいります。年金改革と同様、長期介護システムについても社会を総動員するプロセスをとります。新政府の方策は、政府が主導および計画し、民間がコミュニティ主義の精神を発揮し、社会全体が相互に助け合う力を通して、適切で完備されたシステムを構築するよう支援していくというものです。高齢者一人一人が自分の住み慣れた地域で、安心して老後の生活を送り、いずれの家庭も介護の負担を軽減できるようにしていきます。老人介護の仕事は完全に自由市場へと変えることはできません。我々は責任を担い、順序立てて計画および実行し、高齢化社会を迎えるにあたり、十分な準備をしていきます。
三、社会の公平と正義
新政権が取り組む3つ目のテーマは、社会の公平と正義です。このテーマについては、新政権は引き続き公民社会と共に力を合わせて、台湾の政策をより多元、平等、開放、透明、人権といった価値観に合致するよう、台湾の民主主義メカニズムをより深く進化させてまいります。
新しい民主主義メカニズムが十分に機能するには、我々はまず過去と向き合う共通の方法を見出さなければなりません。これから、私は総統府に真相・和解委員会を設置し、最も誠実かつ慎みある姿勢で、過去の歴史に対応してまいります。正義への移行を追求する目標は、社会の真の和解を追求することであり、すべての台湾人があの時代の過ちを知っておかなければなりません。
我々は今後、真相の調査と整理から始め、3年以内に、台湾自身の正義への移行の調査報告書を完成させる予定です。我々は調査報告に示された真相に基づき、次に正義への移行作業を進めていくことになります。真相を発掘し、傷跡を癒し、責任をはっきりさせます。それにより以後、過去の歴史は台湾の分裂の原因にはならず、共に台湾が前へと歩み出す原動力となるのです。
同様に公平と正義のテーマにおいては、私は共通の原則を堅持し、先住民族のテーマについて向き合います。本日の就任式では、先住民族の子ども達が国歌を歌う前に、先に彼らの村の伝統民謡を歌いました。これは、我々はこの島にやって来た順番を忘れることはとてもできないということを象徴しています。
新政権はお詫びの姿勢で、先住民族の関連テーマに向き合います。先住民族の歴史観の再構築、段階的な自治の推進、言語文化の復元と育成、生活ケアの向上、これらは私が導く新政権が推進する変革であります。
続いて、新政権は司法改革についても積極的に推進してまいります。これは現段階における台湾の人々にとり最も関心あるテーマです。司法が国民感覚から離れ、国民から信頼されず、司法が犯罪撲滅に効果的でなく、司法が正義を守る最後の一線を失っているというのは、国民が広く感じていることです。
新政権の決意を示すため、我々は今年10月に司法国是会議を開催し、国民が実際に参加することを通して、社会の力を取り入れ、共に司法改革を推進してまいります。司法は国民のニーズに必ず応えなければならず、法律専門家だけのための司法にとどまるのではなく、全国民のための司法でなければなりません。司法改革は司法専門家の内部業務だけにとどまるのではなく、全国民が参加して改革すべきものです。これが私の司法改革への期待であります。
四、地域の平和的安定発展と両岸関係
新政権が取り組む4つ目のテーマは、地域の平和的安定と発展、そして両岸関係を適切に対処することです。過去30年間、アジアあるいは世界のいずれもが、変動の最も激しい時代でした。そして、世界および地域の経済的安定と集団安全保障も、各国政府がますます関心を払う課題となっています。
台湾は地域の発展の中で、常に不可欠である重要な役割を果たしています。しかし近年、地域の情勢変化のスピードが速まり、台湾がもし自己の実力とカードをうまく用いて、積極的に地域実務に参加できなければ、取るに足らない存在となってしまい、さらには取り残され、未来の自主権さえも喪失しかねません。
我々は危機に面していますが、それは転機でもあります。台湾の現段階における経済発展は、地域における多くの国々との高度な繋がりと相互補完からなっています。もし今後、経済発展の新たなモデルを確立する努力を、アジア、あるいはアジア太平洋地域の国々との協力を通して、共に未来の発展戦略を形作ることができれば、地域の経済イノベーション、構造改革と持続可能な発展への積極的な貢献ができるのみならず、地域内のメンバーとともに緊密な「経済共同体」意識を構築できるのです。
我々は他の国々と資源、人材、市場を分かち合い、経済のパイを拡大することにより、資源を有効利用しなければなりません。「新南向政策」とはつまり、このような精神に基づくものです。我々は科学技術、文化、経済・貿易などさまざまな面において地域のメンバーと幅広い交流と協力を進め、特にASEAN(東南アジア諸国連合)やインドとの多元的な関係を深めてまいります。そのためにも、我々は海峡の対岸と地域発展への共同参画といった関連テーマについて心を開いた意見交換を行い、さまざまな協力と連携の可能性を見出したいと願っております。
積極的な経済発展と同時に、アジア太平洋地域の安全保障情勢はますます複雑化しており、両岸関係も地域の平和と集団安全保障の重要な一環となっています。これを確立させる道筋においては、台湾は「平和の忠実な守護者」として積極参加し、決して欠席することはありません。我々は両岸関係の平和と安定の維持にも力を入れてまいります。我々は内部の和解促進にもより一層努め、民主主義メカニズムを強化し、コンセンサスを凝集し、一致した対外的立場を形成してまいります。
対話と意思疎通は、我々が目標を達成するための最も重要な鍵です。台湾は「平和のための積極的なコミュニケーター」となるためにも、我々は関係する各方面と常態化された緊密な意思疎通メカニズムを構築し、いつでも意見を交換できるようにして、判断を誤ることを防ぎ、相互信頼を確立することにより、効果的に争議を解決できるようにします。我々は平和的原則を遵守し、利益の分かち合いを原則として、関連争議を処理してまいります。
私は中華民国憲法に基づいて総統に当選し、私には中華民国の主権と領土を守る責任があります。東シナ海および南シナ海の問題については、我々は争議の棚上げと共同開発を主張します。
両岸間の対話と意思疎通については、我々も既存のメカニズムの維持に努めます。1992年に両岸の両会(海峡交流基金会と海峡両岸関係協会)が相互理解と求同存異(小異を残して大同につく)の政治的姿勢で、意思疎通の話し合いを行い、若干の共通の認知と理解が得られました。私はこの歴史的事実を尊重します。92年の後、20数年間にわたり双方が交流し、話し合いを積み重ねて形成された現状と成果を、両岸はいずれも共に大切にし、守っていくべきであり、この既存の事実と政治的基礎の上に、引き続き両岸関係の平和的な安定と発展を推進してまいります。新政権は中華民国憲法、両岸人民関係条例およびその他関連する法律に基づき、両岸の実務を処理してまいります。両岸の2つの与党は歴史の重荷を下ろし、良性的な対話を行い、両岸の人々の幸福を作り出すべきです。
私が述べた既存の政治的基礎は、次の数点の重要な要素が含まれます。第1に、1992年の両岸両会会談の歴史的事実および求同存異の共通の認知は歴史的事実であること。第2に、中華民国の現行憲政体制。第3に、両岸の過去20数年間にわたる話し合いと交流の成果。第4に、台湾の民主主義の原則と普遍的な民意であります。
五、外交およびグローバルな課題
新政権が責任を持って取り組む5つ目のテーマは、地球の公民としての責任を果たし、外交およびグローバルな課題に貢献することです。台湾が世界に向けて歩み出すとともに、世界が台湾に歩み入るようにします。
会場には各国から数多くの元首および使節団にお越しいただきました。皆様方が長きにわたり一貫して台湾を支援していただいたことにより、我々が国際社会へ参加する機会を持てたことを、ここで改めて感謝申し上げます。今後、我々は引き続き政府間交流、企業投資、民間協力などさまざまな方法で、台湾における発展の経験を分かち合い、友好国と末永いパートナー関係を構築してまいります。
台湾は世界の公民社会の模範生であり、民主化以降、我々は平和、自由、民主主義、人権といった普遍的価値観を終始堅持してきました。我々はこれらの精神を堅持し、グローバルな課題の価値観同盟に加入してまいります。我々は引き続き米国、日本、欧州を含む友好的な民主国家との関係を深め、共通の価値観を基礎として、全方位的な協力を推進してまいります。
我々は国際的な経済貿易連携およびルールの制定に積極的に参加し、グローバルな経済秩序を断固として守り、重要な地域経済の枠組みへの加入を進めます。我々は地球温暖化および気候変動を食い止める課題についても欠席しません。我々は今後、行政院にエネルギーと低炭素化を担当する部署を設置し、COP21パリ協定の規定に基づき、定期的に温室効果ガスの排出量削減目標を再検討し、友好国と手を携えて、共に持続可能な地球を守ってまいります。
同時に新政権は、人道支援、医療援助、疾病の予防と研究、反テロ協力、国際犯罪の共同取締りなどのグローバルな新しい課題の国際協力についても支持、参加してまいります。それにより台湾は国際社会に不可欠なパートナーとなるでしょう。
結び
1996年に台湾で初の総統直接選挙が実施され、今年でちょうど20周年となります。過去20年間、何代かにわたる政権と公民社会の努力の下、我々は多くの新興民主国家が必ず直面する難関を乗り越えることができました。このプロセスにおいて、我々は数多くの感動的な場面とストーリーがありました。しかし、世界のその他の国々と同様に、我々にも焦りや不安、矛盾、そして対立がありました。
我々は社会の対立、進歩と保守の対立、環境と開発の対立、政治イデオロギーの対立を見てきました。これらの対立は、かつては選挙の際の動員のエネルギーとなっていました。しかし、これらの対立により、我々の民主主義は徐々に問題解決能力を失うようになりました。
民主主義は一つのプロセスであり、どの時代の政治家も、自身が背負う責任をはっきりと認識しなければなりません。民主主義は後退することがありますが、前進もします。本日、私はここに立ち、皆様に申し上げたいのは、後退は我々の選択肢ではないということです。新政権の責任は台湾の民主主義を次のステージへと推し進めることです。以前の民主主義は選挙の勝ち負けでした。そして今、民主主義とは、人々の幸せに関わることです。以前の民主主義は2つの価値観の対決でした。そして今、民主主義とは、異なる価値観の対話なのです。
イデオロギーに縛られない「団結の民主主義」を確立し、社会および経済の問題に対処できる「効率的な民主主義」を確立し、人々を実質的にケアできる「実務的な民主主義」を確立する。それが新時代の意義なのです。
我々が新時代がやって来ると信じ、この国の主人が確固とした信念を持つ限り、新時代は必ず我々この時代の人々の手によって誕生するでしょう。
親愛なる台湾の皆様。私の演説はまもなく終わり、そして改革が始まります。この瞬間から、この国への重責が新政権にかかっています。私は皆様にこの国の変革を見ていただきたい。
歴史は我々のこの勇敢な世代を記憶するでしょう。この国の繁栄、尊厳、団結、信頼、正義、いずれも我々の努力の跡があることを。歴史は我々の勇敢さを記憶するでしょう。2016年、我々が共に国を新しい方向へと導いたことを。この土地にいる誰もが、台湾の変革に参加することを誇りに思っていただきたいのです。
先ほどのプログラム中の歌で、感動した歌詞がありました。それは、
「いまがその日だ、勇敢な台湾人よ」
国民同胞の皆様、2,300万人の台湾の皆様、待つことは終わりました。今日がまさにその日なのです。今日、明日、そしてこれから毎日、我々は民主主義を守り、自由を守り、この国の台湾人を守ってまいります。
ありがとうございました。
【総統府 2016年5月20日】
写真提供:総統府