「中華民国建国105年双十国慶節」蔡総統談話(全文)
蔡英文総統は10月10日午前、総統府前広場で開催された「中華民国中央および各界による建国105年祝賀大会」に出席し、「堅実に前進、改革により国を偉大に」と題する演説を発表した。
蔡総統の談話の全文は以下の通りである。
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本日は中華民国105年の建国記念日です。遠路からお越しいただいた各国のご来賓および世界各地から故郷台湾に戻られた華僑同胞各位に感謝の意を表します。我々と共にこの荘厳な国の祝典に立ち会っていただいたことにお礼を申し上げます。
そして、陳金鋒氏にも感謝します。本日、陳氏はいつもの野球場を離れ、国歌斉唱の音頭をとりました。陳氏は我々全台湾人の心の中の英雄です。
私は国の誕生日であるこの日、これまでの長い歳月の中で、国のために貢献と犠牲を払われた方々に、最高の敬意を表します。
この国はかつて強権統治、エスニックの対立を経て、ナショナル・アイデンティティの先鋭化した対立も経てきました。こういった過去を心に、現在新政権が担っている責任は、この国を生まれ変わらせることです。
今年5月20日の総統就任演説の中で、私は、「若者の境遇を変えることは、国家の境遇を変えることである」と述べました。この数カ月間、我々が始動した改革は、いずれもこの主軸をめぐって前進しているものです。
若者は住宅価格が非常に高く、その負担がきわめて深刻であるのを憂慮していることから、我々は社会住宅の提供に着手しています。まず4年内に8万戸を提供し、この8年間では20万戸の提供を予定しています。台湾は多くの先進国と同様、社会住宅が普及した国へと変わるのです。
若者が事業に打ち込もうとするには、政府が彼らに後顧の憂いが無いようにしなければなりません。年長者がいる家族には介護が必要であり、我々は長期介護制度の推進に取り組みます。子供がいる家族には世話をする人が必要であり、我々は託児計画の推進に取り組みます。
我々の年金制度は破綻するかもしれません。政府は最も厳粛な姿勢でこの問題に対処します。年金改革後、若者の負担は相対的に軽減されることになるでしょう。若者は支払った費用が、受給年齢になった時に受け取れなくなることを心配する必要もないのです。しかも、この国は国民がリタイヤした後、尊厳ある生活を公平に保障できるようになるのです。
同じような考えから、我々は「移行期の正義」を推進します。新政権は台湾の民主政治の斬新な始まりを提供しようとするものであり、それは若者への健康的かつ多元的な民主政治です。これこそが移行期の正義推進の真の意義です。
これら現在推し進めている政策のほか、我々は経済・産業の振興も推進しています。我々はイノベーション・研究開発を牽引力とする「5+2」(グリーンエネルギーテクノロジー、スマート機械、アジアのシリコンバレー計画、バイオ・医薬、国防産業といった五大イノベーション研究開発計画と新農業および循環経済の2つの計画)」産業発展計画を打ち出しています。先の一時期、これらの計画および関連法規の修正もすでに全てスタートしています。我々の目標は若者のために良い仕事の機会を創出し、彼らの給与を引き上げようとする明確なものです。
産業の転換は、この国の経済を振興させる根本的な道です。我々は堅実にこの道に向かって邁進していきます。これは長い道のりでありますが、我々は様々な困難を乗り越えていく決意があります。政府はすでに投資拡大方案を策定し、投資環境の改善から、民間投資の積極的な誘発、公営事業投資の拡大、イノベーションの強化など、それらを同時進行で行い、長年にわたり低迷してきた経済の転換に尽力してまいります。
我々の努力はすでに初歩的な成果を収めました。先週、我々が台北で開催した「台湾投資サミット」で、外資による台湾への投資意向額は近年の最高額を記録しました。外資が台湾に対する信用を再燃させたのは、我々の堅実な決意と改革の勇気によるものです。台湾経済の振興と産業の転換の鍵は我々自身にあるのです。
親愛なる国民の皆様。改革の道は必ずや紆余曲折があるはずです。しかし、私は全国民の皆様に、これらの波乱曲折により台湾に対して希望を失ってはならないと切に呼びかけるものであります。
これは歴史的にも初めて、この国の全ての人が、我々は最終的にどのような国を若者に残そうとしているのかと共にじっくりと腰を落ち着けて考えることができたのです。このチャンスを我々の手から逃してはならないのであり、決定権は我々の世代の手にあるのです。
新政権のビジョンは明確なものであり、我々の過去数カ月間の行動は、この国をその場で足踏みしている状態から抜け出すようにすることです。産業の転換は台湾経済を牽引し、社会のセーフティネットは国民の安全を確保し、年金改革は国家財政と国民のリタイヤ後の生活を確保し、移行期の正義は、民主主義の新たなるスタートとなるものです。また同時に、司法改革の準備も活発に進行中であり、一旦司法人事が緒に就いたならば、改革は加速して行われることになります。
我々は国の前進を堅持するものであり、その方向性はすでに確定しています。我々はこの方向で引き続き前進し、断じて怯むことはありません。
台湾の人々は平和を切望し、民主主義を追求し、海外への展開を希望し、国際社会に貢献していきたいと願っています。
新政権は発足後、「堅実外交、互恵互助」の原則を堅持しています。私はこれまでに、パラグアイ、パナマの友好国2カ国を訪問し、パナマ、パラグアイ、ドミニカ共和国、ホンジュラス、ベリーズ、エルサルバドル、グアテマラなどの元首または副元首と会見しました。陳建仁副総統もドミニカ共和国とバチカンを訪問しました。我々は外交では一方向的な参加ではなく、友好国と連携し互恵の協力計画を立て、双方がウィンウィンとなるよう希望しています。
我々は積極的に世界に向けて歩みだします。国際機関に参加する道のりは容易ではありませんが、それでも我々は着実に歩んでまいります。台湾はグローバルな重要課題について欠席したことはなく、圧力を受けようとも、我々はあらゆる主要な民主国家と共に努力し、人類のために意義のある貢献を果たしたいと願っています。
ここ数カ月間、我々は友好国と数多くの国際的活動を行ってきました。疾病の予防・治療、エネルギー効率、女性の権利、地域デジタル格差を縮小するための電子商取引訓練などの実際の行動を通して地域の発展のために貢献しています。また、この期間、我々はいくつもの国と災害予防・救援、海上捜索、各種海事協力のテーマについて積極的に話し合い、地域協力のエネルギーを蓄積してきました。台湾が国際社会に貢献できることは、我々台湾の人々にとり誇らしいことです。
5月20日以降、新政権の米国、日本、欧州などの民主国家との関係は、いずれも実質的に成長しています。台湾の国際参加のテーマに対するこれらの国々の支持の力は以前より強くなっています。この場をお借りして、私は国を代表してこれらの国際社会の親愛なる友人に、台湾人として心より厚く感謝申し上げます。
同時に、台湾のアジア太平洋における役割を見直し、新たな成長のエネルギーとすることを目指して、我々は新南向政策を積極的に推進し、政策綱領および推進計画を策定しました。今後、経済・貿易、科学技術、教育、文化、観光などの分野について、東南アジア、南アジア、オーストラリア、ニュージーランドなどの国々と互恵互助の協力関係を強化し、広範な話し合いのメカニズムを通して、協力のコンセンサスを構築し、ハードルを下げていくものです。
我々と中国大陸は、地域発展の中において異なる役割を果たしています。台湾は人材育成、農業の発展、科学技術のイノベーション、医療、中小企業などの分野における経験と優位性を十分に発揮して、地域の発展のために積極的に貢献していく所存です。我々は地域のインフラ建設および多国間の経済・貿易連携などの面で、対岸と話し合いを進め、手を携えて協力し、共に歴史の一里塚を築いていきたいと願っています。
両岸関係に対して、私が改めて申し上げるのは、一致性があり、予測可能で、持続可能な両岸関係を構築し、台湾の民主主義と台湾海峡の平和の現状を維持することは、新政権が断固として揺るぎない立場であるということです。
「現状維持」は私の有権者に対する約束です。5月20日の就任演説で私が発したどの一言も変わっていません。新政権は中華民国憲法及び両岸人民関係条例、並びにその他関連法律に基づいて、両岸実務を処理してまいります。我々も両岸間の対話と意思疎通メカニズムの維持に最大限努力し、我々は1992年に両岸両会(海峡交流基金会と海峡両岸関係協会)が会談した歴史事実を尊重し、両岸が1992年の後、20数年にわたる双方の交流や話し合いを通して蓄積された現状とその成果を共に大切に守り、既存の政治的基礎の上に、引き続き両岸関係の平和かつ安定的な発展を推進していくべきだとも主張しています。私はここで、両岸の2つの政権与党が歴史の重荷をいったん下ろし、前向きな対話を行うことで、両岸の人々の幸福を創出するよう呼びかけます。
過去数カ月間、両岸関係はいくつかの起伏がありましたが、我々の立場は一致し、揺らぐことはありません。我々の約束は変わらず、我々の善意も変わりません。我々は圧力に屈服することはなく、対立の古い道にも戻りません。これは我々の「現状維持」に対する基本的姿勢であり、両岸平和への共通の願いに基づくものでもあります。
私が強調したいのは、「現状維持」のより積極的な意義は、深化する民主主義制度の基礎の上に、より先見的かつ積極的に行動し、両岸の建設的な交流と対話を推進し、持続可能な両岸の平和かつ安定した関係を構築することです。
私はここで中国大陸当局に対し、中華民国が存在する事実を直視し、台湾の人々の民主主義制度に対する確信を直視するよう呼びかけます。両岸は速やかに座って話し合うべきであり、両岸の平和発展に有利であり、両岸の人々の福祉に有利なことであれば、何でも話し合うことができます。両岸の指導者は共に知恵と柔軟性を示し、冷静な態度で、両岸の現存する意見の食い違いからウィンウィンの未来へと共に導いていくべきです。
5月20日から今日まで、100日余りが経過し、多くの事が一歩ずつ始まっています。私はここで林全・行政院長をリーダーとする行政院のチームに深く感謝申し上げます。改革に近道はなく、近道ができるような改革は、通常は真の改革ではありません。国を真に抜本的に改革するために、新政権は一歩一歩着実に実務的に前進させることを選択しています。間違いがあれば改め、正しいことは必ず堅持し、批判や嘲笑を怖れない。これこそが台湾の人々が期待する政府なのだと考えます。
今年6月、私がパラグアイを訪問した際、カルテス大統領は私に「あなたの国はあなたが想像するよりも大きい」と述べられました。今日の演説は最後に、この言葉を我々すべての国民に捧げたいと思います。我々の任務は、国民に信じてもらうことであり、この国を改革により、偉大にすることです。
ありがとうございました。我々の国の国運隆盛と順風満帆を祈念いたします。
【総統府 2016年10月10日】
写真提供:総統府