中華民国第15代総統に就任、蔡英文総統の就任演説全文
蔡英文総統が20日、宣誓を経て中華民国第15代総統に就任。台北賓館(台湾北部・台北市)で就任演説を行った。以下全文。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
頼清徳副総統(この日、中華民国第15代副総統に就任した)、会場にお集まりの貴賓の皆様、テレビの前及びインターネットでご視聴の皆様、全ての国民の皆様、こんにちは。
(一)共同体としての台湾
今日、私はここに立ち、この上ない感謝の気持ちを以って、台湾の人々が再び託して下さった責務を引き受けます。これは中華民国の歴史上、最も特別な総統就任式典です。特別なのは式典の規模や参加人数ではなく(就任式典は感染症対策のため台北賓館の庭園において限られた規模で開催された。出席者はソーシャル・ディスタンスを保つ形の席について演説を聴いた)、(就任式までが)どれだけ困難だったかということです。台湾の人々に感謝したいと思います。皆さまはこれほど難しいことを台湾で実現させたのです。
私は特に一部の人々に感謝したいと思います。過去4カ月にわたる感染防止の取り組みの中、これらの人たちについてはめったに触れられませんでした。感染が広がり始めた当初、薬局に列を作った台湾の人たちに感謝したいと思います。皆様の忍耐、そして政府に対する信頼に感謝します。あなた方こそが、台湾は最も不安な時にも公民の美徳を保てることを全世界に示したのです。
私はまた、「在宅検疫」や「在宅隔離」を強いられた人たちに感謝したいと思います。皆様が生活上の不便を我慢したのは他人の健康を守るためです。ありがとうございます。皆様が人間性の最も善良な一面を発揮し、台湾におけるウイルスの封じ込めを成功させたのです。
国としての誉れ、生死を共にする共同体。この記憶は我々一人ひとりの心に残ることでしょう。団結とはこうした感覚なのだと。
今日ここには数多くの外国の使節代表がお集まりですし、世界の多くの国がみな台湾に関心を寄せていることと信じています。私はこの機会に、皆様が目にしているこの国には善良で強靭な人々が大勢いると伝えたいと思います。これらの人々はどれだけ困難な環境においても民主と団結、互いの責任感を頼りにそれら挑戦に打ち勝ち、難関を乗り越え、世界の中で揺らぐことのない台湾を実現しているのです。
(二)空前の挑戦と絶好のチャンス
1月からこれまでに台湾は2度、国際社会を驚かせました。最初は民主的な選挙で、次に感染症対策の成果です。このところ感染症対策の成功により、「台湾」という文字が世界の主要各メディアに現れています。また、「台湾」の文字は我々が海外に寄付する物資にも記されています。台湾人は世界で最も善良な人々であり、能力がある限り必ず国際社会に救いの手を差し伸べます。
私は全ての国民がこの栄誉と喜びを分かち合うと同時に、「自助助人、自助人助」(自らの力を高めてこそ他人を助けることが出来る。自ら努力してこそ他人からの助けを受けられる)の精神を、身を以って感じてほしいと願っています。
感染はまだ完全に収束しておらず、わずかな油断も禁物です。また感染が収束しても、その影響がただちに消えて無くなるわけではありません。今回の感染拡大が全世界に与えたダメージは深く、幅広いものです。それは世界の政治経済の秩序を変化させました。また全世界のサプライチェーンの再編を加速・拡大させ、経済の勢力図を書き換えました。人々の生活や消費形態にも変化をもたらしました。そしてさらには、台湾とその周辺の情勢に対する国際社会の想像力をも変化させました。
こうした変化は挑戦ですが、チャンスでもあります。私は全ての国民がそれに向けてしっかり準備するよう求めたいと思います。なぜなら様々な試練と難関がこれからも我々を待ち受けているからです。向こう4年間、感染から抜け出せたもの、感染のもたらした変化に対して国の生存戦略を描き出せたもの、感染収束後、複雑さを増した国際情勢の中でチャンスをつかめたもの。そうした国が世界で頭角を現すことになるのです。
国家運営は感情を頼りに行うものではなく、変化の中で冷静さを保ち、方向を指し示すことが必要です。過去4年間、私はこれをやり遂げました。私は以前、より良い国を皆様のために残すと言いました。ですから次の4年間、私は産業の発展、社会の安定、国家の安全、民主の深化という4つの面において、先手先手で取り組んで台湾を生まれ変わらせ、台湾を未来に向かわせます。
(三)国家建設事業
1、産業と経済の発展
台湾の人々が最も関心を寄せているのは我々の産業と経済の発展です。我々は2016年に「経済発展新模式」(経済発展新モデル)をスタートさせ、台湾経済を世界に歩み出させようと努力してきました。4年が経ち、国際経済が大きく変動する中で台湾はそれに耐え抜いたばかりでなく、経済成長率を「アジアの4匹のリトルドラゴン」(台湾、シンガポール、韓国、香港)のトップに返り咲かせました。また、平均株価指数も1万ポイント以上が常態化しています。
新型コロナウイルスを抑え込んだことで台湾経済は今のところまだ成長を維持しています。これは全世界で珍しいケースです。しかし我々は今後も感染拡大の影響を受けた人たちと産業への支援、ならびに経済振興策の面で先手先手に取り組み、経済の安定成長維持に全力を注がなければなりません。
向こう4年間、我々が向き合うのは世界経済のより激しい変動であり、サプライチェーンの再編が加速されていく局面です。経済全体で言えば、我々は「安定の中で成長を目指す、変化の中で他に先んじてチャンスをつかむ」という政策理念を維持し、「将来を見据えたインフラ建設計画」、「1兆台湾元(約3兆5,500億日本円)規模の投資」などの重大なプロジェクトを引き続き確実に執行することで向こう数十年の経済発展を確保します。また、産業発展の面ではさらにタイミングを掌握せねばなりません。「5+2産業イノベーション計画」を基礎とし、「6大核心戦略産業」を育て上げることで、台湾を将来の世界経済にとってのキー的なパワーへと成長させるのです。
●6大核心戦略産業
第一に、台湾は情報デジタル関連産業の発展を引き続き推進していきます。我々は半導体と情報通信産業でのアドバンテージを利用して全世界のサプライチェーンにおける中心的な地位を全力でつかみ取り、台湾を次世代の情報通信技術に関する重要な基地へと建設します。そしてIoT(モノのインターネット)とAI(人工知能)の発展を全力で促進します。
第二に、台湾は5G(第五世代移動通信システム)時代、デジタルトランスフォーメーション、国の安全保障を結びつけた情報セキュリティ産業を発展させます。我々は効果的に自らを守り、世界からも信頼される情報セキュリティシステムとその産業チェーンを全力で整えます。
第三に、我々は世界とつながるバイオメディカル産業を育て上げます。新型コロナウイルス感染拡大の中で、「台湾チーム」は試薬の製造かあるいは新薬やワクチンの研究を問わず、いずれも十分な能力を示して、世界トップレベルの技術とつながることが出来ました。我々は関連の産業を全力でサポートし、台湾を、感染症のもたらす挑戦に世界が打ち勝つためのキー的な力へと成長させます。
第四に、我々は軍と民間が一体となった国防戦略産業を発展させます。すでに進められている軍艦や戦闘機の国産化のほか、より強力に軍と民間の技術統合を推し進めて民間の製造能力向上を促し、航空宇宙産業への参入も目指します。
第五に、我々はグリーン電力と再生可能エネルギー産業の発展を加速します。過去4年間、再生可能エネルギーは飛躍的な発展を遂げ、台湾は再生可能エネルギーに関する国際投資の人気の投資先となりました。この状況に基づき、私はエネルギー全体にグリーンエネルギーが占める割合を2025年には20%にするという目標の達成に自信を深めています。台湾はアジア太平洋地域におけるグリーンエネルギーの中心となるでしょう。
第六に、我々はカギとなる物資の供給を確保するに足る民生と戦備の産業を築く必要があります。世界秩序の変化に向き合い、我々はマスクや医療物資、民生物資、エネルギーから食糧の供給まで、重要な産業チェーンを国内に留め置き、一定の自給率を維持する必要があるのです。
現在の国際情勢では、他に依存しない国こそが生き残りと発展に向けて他に先んじるチャンスをつかみ取ることが出来ます。私は産業界の全ての人々に安心してほしいと思います。政府が産業を孤立無援にすることはありません。向こう数年間、我々はいくつかの主要な戦略により、全力で産業を発展させていきます。
●産業発展戦略
まず我々は国内の需要を基本的なエネルギーとして産業の発展につなげていきます。特に公的部門の需要、そして国の安全を維持するための基本的な需要です。例えば今回の感染症では、マスクなど感染予防物資の戦略的な需要が関連の産業の発展につながりました。これは最も良い例です。我々の国防産業と再生可能エネルギー産業も同様のモデルで発展を加速させることが可能です。
マスクの「ナショナルチーム」(マスクの生産ライン製造のために集結したメーカー)にとどまらず、我々は今後、各産業の規模と状況に応じて「ナショナルチーム」を組織します。国内需要を政府が保証することで世界に向けた「台湾ブランド」の戦略物資製造業を確立し、それを海外市場へと展開させます。
また、我々は金融支援が産業の発展にとって最も重要な要素であることを知っています。これから我々はより機敏な金融政策をとり、金融体制の改革に引き続き取り組みます。そしてより多元的な金融手法を駆使して産業の資金面でのニーズに応えていきます。
我々は安全な産業環境整備にも全力で取り組みます。行き届いた公衆衛生システム、堅固な国家安全保障システム、安定した社会、良好な法治、健全な市場の維持に力を尽くします。こうした保証があってこそ、全世界のハイテク産業と戦略的な産業はその生産と研究開発の基地として台湾を選択するのです。
我々はさらに、産業が各国へ展開できるよう引き続き指導します。そして米・日・欧との貿易や投資保護の協定締結に向けてこれからも努力していきます。
また、「新南向政策」(東南アジア、南アジア、ニュージーランド、オーストラリアとの幅広い関係強化を目指す政策)を継続的に推進すると同時に、可能性を秘めた他の市場の開拓にも積極的に取り組み、企業の現地進出を後押しします。それにより、産業の国際協力により有利な条件を生み出します。我々が全世界で機会を探っていく中で、各地に進出している台湾系の企業は最高のパートナーとなるのです。
最後に人材の問題です。台湾が世界経済にとってのキー的なパワーとなることを目指すならば、各方面の人材を結集させなければなりません。私の政府は、世界トップレベルの技術者、研究開発者、マネジメント人材の確保に全力で取り組み、台湾における産業チームのさらなる国際化、ならびにグローバルな競争に向けた視野と能力の育成に努めます。台湾は今後さらに国際社会とリンクしていく必要があります。我々はバイリンガル国家とデジタル技術の領域において、台湾の人材とエリートをより多く育成し、産業の国際競争力をいっそう強化していきます。
向こう4年間、資金の流れがより柔軟で、人材の流れがより活発で、産業の力がより強く、より緊密に世界と結び付いた台湾は、全く新たな経済の形を切り開き、繁栄の新時代を迎えることでしょう。
2、社会の安定:医療健康ネットワークと社会のセーフティネットにより、助けを必要とする全ての人を支援
産業の発展と同時に、我々は社会の安定を忘れてはなりません。これも人々の政府に対する重要な期待です。「より良い国」の政府とは、より多くの責任を担い、人々の負担を軽減し、社会の問題を減らす政府です。過去数年、我々は「長照2.0」(長期介護十カ年計画2.0版)、「幼託照顧」(育児・託児に関する支援政策)、「居住正義」(安心できる住宅政策)での問題を一つ一つ補ってきました。向こう4年間、私の目標はこのセーフティネットをより密なものにし、助けが必要な全ての人を受け止めて、残念な出来事が繰り返されないようにすることです。
●健康防疫安全ネットワーク
まず我々は健康と防疫のネットワークをいっそう強化する必要があります。台湾はすでに高齢社会であり、感染症の流行は人々の健康にとって厳しい挑戦となります。我々はこのため、感染症の防止と治療、ならびに医療エネルギーを強化する必要があります。産業と一緒になって、ワクチンと治療薬の開発や感染症予防の分野でより多くの画期的成果をあげ、人々がさらに健康になり、より良いケアを受けられるようにするのです。
●社会のセーフティネットの綻びを繕う
次に、我々は社会のセーフティネットの綻びを繕わなければなりません。ここ数年来、「思覚失調症」(精神病)患者によるいくつかの事件が多くの議論を巻き起こしました。「思覚失調症」のみならず他の精神疾患、薬物依存、家庭内暴力などの問題も同じです。我々は人々の憂慮を理解しています。これは個人あるいは家庭の問題であるにとどまらず、政府にとっての問題です。こうした患者に対して家庭が適切なケアを行えない場合、政府はこれに介入し、支援する義務があります。
私は社会のケア体系を強化し、現場におけるソーシャルワーカーの力を高めるつもりです。彼らの労働環境を改善することで、ソーシャルワーカーが最も末端の階層に深く入り込み、従来のセーフティネットからこぼれ落ちていた人たちを探し当てられるようにするのです。また、過去の事例が引き起こした議論について全ての責任を医療機関、もしくは個別の裁判官に押し付けることは出来ません。司法機関と行政機関は制度の見直しと最適化を図るべきで、法改正が必要なところは改正に手を着けなければなりません。
3、国の安全:国防業務の改革、国際社会への積極的な参与、両岸の平和と安定
「より良い国」とは国の安全保障を重視する国です。過去4年間、我々は国防業務の改革、国際社会への積極的な参与を推進してきたほか、台湾海峡両岸関係の平和と安定の維持にも努めました。台湾はインド太平洋地域の平和、安定、繁栄のためにより積極的な役割を果たせるよう希望しているからです。そして向こう4年間、これらの政策方針は変わりません。我々はより多くの取り組みを行っていきます。
●国防業務改革
国防業務改革の面では3つの重要な方向があります。第一に、敵とは異なる戦力である「非対称戦力」の発展を加速させること。防衛力の強化と同時に、将来的な戦力の発展では機動性、対抗力、「非対称戦力」に重点を置きます。また、サイバー戦、心理戦、「超限戦」(あらゆる手段を用いた新たな戦争形態)の脅威を有効に防ぐことが出来るようにし、多層的抑止という戦略目標を達成します。
第二に、後方支援動員制度の実質的な改革です。我々は後方支援部隊(予備役)の実力と武器の装備を強化する必要があります。後方支援部隊の戦力が高まってこそ、常備軍との共同作戦が効果的なものとなります。また、平時から関係省庁を跨いだ常設の後方支援部隊動員体制を確立し、マンパワーと物資について常に調整しておくことで、戦時へと転じた場合の円滑な動員が実現できるのです。
第三に、部隊の管理制度を改善しなければなりません。現在の若い兵士たちはみな、自由で民主的な社会で育ちました。どうすれば彼らが、軍でいっそう強力な戦力と優れた専門能力を発揮できるか。これは直視すべき課題です。
若者が入隊後に軍に適応できない問題は、社会の変化と軍の管理制度とのギャップを反映しています。我々はこのギャップを埋める必要があります。制度が行き届いていないことが軍に対する社会の見方に影響することがあってはなりませんし、そうした事件が起きる度に軍人の誇りと士気が消耗してしまうことも避けなければなりません。
このため我々は制度の上で、軍内部における不服申し立ての仕組みの強化、公平妥当な事件調査メカニズムの確立、人事及び人員配置の日常的な見直しを進めていきます。そして教育訓練の面では各レベルの幹部の指導統制能力を強化し、管理の近代化と専業化を実現します。我々は戦力を維持するための軍紀と、社会的価値の個人に対する尊重との間でバランスをとっていきます。
●国際社会への積極的な参与
過去4年間、我々は反テロリズムのための協力、人道支援、信仰の自由、従来とは異なる安全保障問題などの世界的に重大な議題に積極的に参与してきました。今回、新型コロナウイルスが世界に広がる中でも、我々は出来うる範囲で国際社会に私心の無い援助を行っており、その行動は高く評価されています。台湾はすでに世界から民主のサクセスストーリー、信頼できるパートナー、そして世界の善良なエネルギーであると位置づけられています。これは台湾の人々にとって共通の誇りです。
向こう4年間、我々は引き続き国際組織への参与を目指し、国交を樹立している国々との共栄並びに協力を強めると共に、米・日・欧など価値を等しくする国々とのパートナーシップを深めていきます。我々はまた、地域における協力メカニズムへの参与をより積極的に進め、地域内での関係各国と手を取り合い、インド太平洋地域の平和と安定、繁栄のために具体的な貢献を果たしていきます。
●平和で安定した台湾海峡両岸関係
複雑かつ変化に富む台湾海峡両岸の情勢に向き合い、我々は過去4年間、両岸関係の平和と安定のため最大限努力し、国際社会からも評価されてきました。我々はこうした努力を継続するほか、対岸との対話にも前向きで、地域の安全により具体的な貢献をしたいと考えています。
私は改めて、「平和、対等、民主、対話」という8つの文字を掲げます。我々は北京当局が「一国二制度」を以って台湾を矮小化し、台湾海峡の現状を破壊することを受け入れません。これは我々が堅持する不変の原則です。我々はまた、これからも中華民国憲法と両岸人民関係条例に則って両岸業務の処理にあたります。これは我々が台湾海峡の平和と安定した現状を維持するという一貫した立場です。
両岸関係は歴史のターニングポイントにあります。両岸が将来にわたって付き合っていける道を探り、対立と立場の違いが拡大するのを避ける。この責任は双方が共に負わなければなりません。情勢が変化する中、私は原則を固く守ると同時に問題の解決にはオープンな態度を堅持して責任を果たします。対岸の指導者もこれに見合った責任を担い、共同で両岸関係の長期的な発展を安定的に実現できるよう期待します。
(四)国家体制の強化と民主の深化
向こう4年間、国家建設のプロジェクト以外に、政府体制の最適化も非常に重要です。立法院(国会)ではまもなく修憲委員会(憲法改正委員会)が発足します。政府の制度や人々の権利に関わる様々な憲政体制(立憲体制)の改革問題が十分に話し合われ、コンセンサスを生み出すためのプラットフォームになります。こうした民主のプロセスによって憲政体制はより時代に合った進化を遂げ、台湾社会の価値観にマッチしたものとなります。また政府と国民の間で共通認識となっている18歳での公民権はより優先的に推進すべきです。
司法改革の面で私はこれまでの任期内に「司法改革国是会議」での約束を果たし、「法官法」(裁判員法)、「律師法」(弁護士法)、「憲法訴訟法」、「労働事件法」を相次いで改正しました。これらはみな、司法の体質改善に向けた基礎的な取り組みでした。しかし司法改革は依然として道半ばで、現段階での成果と人々の期待との間にはまだ一定の距離があります。私はこれからも各方面の意見に耳を傾け、その歩みを止めません。人々の不満は改革を持続する原動力なのです。
向こう4年の間に国民裁判員制度は必ず実現しなければなりません。人々を法廷に招き入れて「国民裁判員」を務めてもらいます。彼らは改革を実現するための触媒となり、司法体系と人々との距離は縮まります。それはまた、司法体系をいっそう期待に沿うものとし、信頼の獲得へとつながるでしょう。
また、全ての「憲政機関」(憲法によって設置が定められた政府機関。行政院・立法院・司法院・監察院・考試院のこと)は改革への歩みを続けなければなりません。行政院(内閣)の組織改革は全面的な整理と確認を行った上で改めて始動します。この改革では専従の「数位発展部会」(デジタル発展省)を設立させるほか、時代に合わせて各省庁を調整し、政府のガバナンスを国の発展のためのニーズにいっそうマッチしたものにします。
監察院(中華民国の最高監察機関)の国家人権委員会は今年8月に発足し、運営が始まります。同委員会の設立は台湾が「人権立国」の理念を確実に実行していく上でのマイルストーンであると同時に、監察院にとっての変革の起点でもあります。
私はまた、今年9月に着任する考試院(公務員試験・人事を司る最高行政機関)の新たなチームに対し、まとまった改革案の提出を要請します。考試院は過去の思考方式を改め、職責を果たせる、国のマンパワー部門へと生まれ変わり、現代の政府が必要とするガバナンス要員を育成するのです。
(結論)
国民の皆様。過去70年、中華民国台湾は度重なる挑戦に向き合いながら、より強靭な団結力を発揮してきました。我々は侵略と併呑の圧力に抗い、独裁体制の深い谷から抜け出し、世界から孤立した荒野を歩みました。しかしどんな挑戦に遭遇しようが我々は自由民主の価値をずっと堅持してきました。「自助助人、自助人助」という共同体意識は常に我々の信念なのです。
今日、会場には「防疫英雄」(感染症対策に取り組んだ人々)が多く集まっています。マスクの「ナショナルチーム」である産業の川上、川中、川下のメンバーたち、中央感染症指揮センター(新型肺炎対策本部)の公衆衛生チーム、そして蘇貞昌行政院長(首相)率いる政府のチームの人たちです。
そして会場には来ていないものの、このほかにも様々な業種でより多くの「防疫英雄」が存在します。医療人員、郵送に携わる人々、薬剤師、コンビニエンスストアの店員、そしてタクシーの運転手などなど。一人ひとりの名を挙げられないことをどうかお許し下さい。しかし私は皆様に告げたい。70年来、台湾が次から次へと訪れる挑戦を乗り越えられたのは1人や2人の英雄がいたからではありません。皆様と同じように、歴史の大きな車輪を一緒に動かしてきた無名の英雄たちがいたからです。皆様がいたからこそ、台湾は何世代にも及ぶ幸福、安定、繁栄を続けていけるのです。
私は皆様すべてに敬意を表します。全ての台湾人が英雄なのです。蔡英文と頼清徳はここで皆様からの付託を受けることをとても光栄に思います。この厳しい時期に中華民国総統という重責、大任を任されることで私が感じるプレッシャーは喜びを上回ります。しかし私が怯むことはありません。皆様がいてくれるのですから。
これからの道は平坦ではなく、挑戦は増える一方です。しかし我々は激しい波風の中を歩んできた国です。我々2,300万人は生死を共にする共同体である。このことは過去、現在、そして未来のいずれにおいてもそうなのです。
私は全ての国民が、過去数カ月間みな心を一つにし、互いに寄り添って難関を克服してきた感動を覚えていてほしいと願っています。中華民国は団結することが出来る。台湾は安全でいられる。台湾人であることで栄誉を感じられる。頭を上げて胸を張り、上を向いて堂々と歩くことが出来るのです。
親愛なる国民の皆様。これからの道のりはまだ長く、台湾の物語は新たな1ページを開いたところです。台湾の物語は全ての人々のものであり、それはまた全ての人々を必要としています。
2,300万人の台湾の皆様。我々の道案内を務めて下さい。我々の仲間になって下さい。そして知恵と勇気を結集し、共により良い国を築いていきましょう。ありがとうございました。
Taiwan Today:2020年5月21日
写真提供:総統府
蔡英文総統が20日、中華民国第15代総統に就任して2期目をスタートさせた。台北賓館での就任演説では、向こう4年間で台湾を生まれ変わらせ、未来に向かわせると強調した。